日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『局地的王道食』
『局地的王道食』 第1巻
松本英子 講談社 ¥740+税
(2016年7月22日発売)
グルメマンガ花盛りの今、食に関するマンガにはじつに様々なジャンルがあるけれど、本作はじつにビミョ〜なコーナーを突いてくるエッセイコミック。
ちくわぶ、甘食、かんぴょう、ぎゅうひ、冷凍みかん……だれもが知っているけれど、めったに語られることのない渋い食べ物が並ぶ。
作者によれば「局地的」とタイトルにつけたのは、地理的な意味あいではなく「心の片隅の」のようなニュアンスとのこと。
もろ手をあげて絶賛するとか、毎日でも食べたい大好物……というよりは、ときどきふと恋しくなるそんな味。
食べものの味わいや質感といった個性をじっくり描くだけでなく、“食べもの界”におけるポジションを考察する視点も秀逸。また、食べものの魅力をイメージ的に、ときに擬人化するなどして表現する様は幻想的といってもいいほどで、深い愛情を感じずにいられない。
ちなみに筆者のお気に入りは「ちくわの磯辺揚げ」の章。
ビンボー臭さがぬぐえないかと思いきや、意外やステキな大人の蕎麦屋のメニューにもあったりして……。「よかったね、磯辺揚げ!」となんだか感情移入してしまう。
食材、料理、そしてそれをめぐる店や街や料理人の風情までも完璧に伝える、絵と描き文字の情報量にはいつもながら感服。作者の代表作『荒呼吸』(全5巻)もぜひ!
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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