日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『定番すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』
『定番すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』
ドリヤス工場 リイド社 ¥850+税
(2016年7月29日発売)
各方面から好評を集めた『有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。』の続編にあたる本作。
夏目漱石『坊ちゃん』、織田作之助『夫婦善哉』、芥川龍之介『地獄変』、チェーホフ『桜の園』、梶井基次郎『桜の木の下には』、江戸川乱歩『人間椅子』……などなど、だれもが読んだことはなくても名前は知ってる文学21作品がマンガで描かれている。
「水木しげるにそっくりの絵!」ということでも話題を集めたドリヤス工房。いくら影響を受けたにしても、似せようとしなければできるはずなのに、たんに同人誌的ノリの延長か、はたまた確信犯か? 大いに興味をそそられるところだが、その真意はさておき、そのことが作品に不思議な魅力を醸し出していることは確かで。
水木しげる自身、多くの伝記ものや古典・小説のマンガ化を手がけていただけに、本作を読んでいると「パラレルワールドで水木先生が描いた作品」を読んでいるような、せつないようないとおしいような妙な気分になってくる。
10ページとなれば当然、抜粋もいいところで、ストーリーをおおまかに追うことも困難な尺なのだが、そのなかで最低限の「起承転結」のみ押さえ、印象的な文章やセリフをしっかり抜き出しつつ、大胆なストーリーテリングで、作品のざっくりしたムードや魅力を的確に表現してみせる手腕は、工房だけに、まさに職人の技!
マンガって、てっとりばやく「雰囲気」を伝えるには格好のメディアなんだな~と、今さらながら感心させられる。
この「もの足りないがゆえにもっと読みたくなる感じ」は、10ページだからこその産物なのだろうが、結果として、1冊で21作品を網羅できる「文学全集感」もイカしてます。
とりあえず、知ったかぶりしたい人はもちろん、ここを入り口に、御本家の小説を読んでみるもヨシ。
大人にも子どもにも大推薦の、いまだかつてない文学入門だ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69