365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
9月16日はウォール街爆破テロが起きた日。本日読むべきマンガは……。
『MASTERキートン 完全版』 第6巻
浦沢直樹(著) 勝鹿北星/浦沢直樹(脚) 小学館 ¥1,238+税
1920年9月16日、この日ニューヨークのウォール街で38名の死者と約400名の負傷者を出す爆弾テロが発生した。
その被害の甚大さもさることながら、このテロはその手段によっても歴史に残ることとなる。爆弾は約500ポンド(230キロ)もの重量があり、火薬だけでも100ポンド(45キロ)。そんな重量の爆弾の運用を可能としたのは、馬車を使用したからである。
つまりこのテロは、世界初の「車爆弾」が使われたことでも歴史に残ってしまったのである。
その後、馬車は自動車へと発達をとげるのだが、それにともなってガソリン車は爆弾としても威力を増すこととなってしまう。
今日に至るまで、自動車爆弾によって引きおこされた悲劇は文字どおりに数えきれない。
……とまぁ、もちろんテロが許されざる行為であることはいうまでもないことだが、しばしば自動車爆弾は物語において非常に印象的な使われ方もしている。
映画であれば、いきなりロバート・デ・ニーロが車ごとふっ飛ばされるところから始まる『カジノ』や、穏やかそうなご近所さんの正体を追う主人公に驚愕の結末が訪れる『隣人は静かに笑う』などが挙げられるだろう。そしてマンガで忘れがたい自動車爆弾のエピソードといえば、『MASTERキートン 完全版』第6巻(ビッグコミック版第9巻)に収録されている「血と名誉の掟」だ。
ある日キートンと再会した旧友は、マフィアのドンを父に持つ男。そんな出自のため、彼に友人は少なかったが、キートンだけはそんなことは気にせず友情を結んでいた。
そして血なまぐさい世界とは無縁の世界で成功をおさめていた彼だったが、キートンとの再会を喜んだ直後に自動車爆弾によって跡形もなく吹きとんでしまう。彼の父は、息子は麻薬のからんだマフィアの抗争の犠牲となったと考え、「血と名誉の掟」によって復讐すべく、キートンに真犯人の特定を依頼。
キートンはそんな悲劇の連鎖を断つべく、ドンの暴走を止めながら犯人に迫るが、真実は意外な方向に……というストーリー。
『MASTERキートン』の数々の名編のなかでも、とりわけ哀しくほろ苦い結末が心に残る1編である。
本来は文明の利器である自動車を、非道極まりない爆弾に仕立てる人間がいる一方で、逆に自動車爆弾を使ってこんな美しい物語をつづることができるのもまた人間。
ま、「物はなんでも使いよう」なのではあるが、できることなら「正しいこと」に使いたいものですね。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。