日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『オチビサン』
『オチビサン』 第8巻
安野モヨコ 朝日新聞出版 ¥740+税
(2016年9月7日発売)
安野モヨコの現在のライフワークといえる作品『オチビサン』の最新刊。
みつばちのオチビサン、犬のナゼ二とパンくい、いたずら好きの猫のジャック……といった登場人物らの日常が日本の美しい四季とともに描かれてゆく。
ただ、それだけの作品になぜこんなにも心を奪われるのか?
これといった事件が起こるわけでもなければ、登場人物らが何かをなしとげるわけでもない。
ただ、新緑の緑と夏を経た9月の緑では同じ緑でも色や質感が違う……といった、わざわざだれかに報告するようなことではないけれど、ハッと目を開かれるような「小さな気づき」がいきいきと描かれていて、読み終えたあとは少しだけ世界が変わって見えてくる。
金木犀の匂いに誘われて、瓶を片手に「香りをつかまえに来たんだよ」とうれしそうに話す、オチビサンの愛おしさよ……。
足りないものばかりに目が行きがちな現代だが、私たちのすぐそばには、いつだってこんなにも豊かな世界が広がっているのだ――。
不意に放たれる哲学的なセリフも、じんと沁みる。
これはもう「日本版ムーミン」といっても過言じゃない!? (TVドラマ化希望!)
ちなみに、ほぼオールカラーで描かれた本書の彩色は、ポショワールという手刷りの版画技法によるものだそうで、にじんだような淡い色彩のグラデーションや微妙な陰影や濃淡の美しさには、思わずうっとり。眺めているだけでほっといやされる。
今秋、池袋パルコミュージアムで初の大規模個展が開催中(9月26日まで!)の安野モヨコ。
しばらくご無沙汰だった読者も今一度、安野ワールドに触れてみてほしい。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69