日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『すばらしきかな人生 -ふたたび友郎-』
『すばらしきかな人生 -ふたたび友郎-』第2巻
北原雅紀(作) 若狭星(画) 小学館 ¥648+税
(2016年8月30日発売)
こつ然と現れるミステリアスなバー「ボレロ」のマスター・坂巻友郎が、「あの日に帰りたい!」と願う客の希望を叶える“ifファンタジー”。
できることなら、あの日に戻って人生をやり直したい――。だれしもそんな夢想を抱くものだ。
なぜなら、その後に起こる出来事を知っているから。「勝ち馬のわかっている馬券を買いたい!」なんて、都合のいい話である。
しかしながら、代償として「10年分の寿命」と引きかえに、過去に戻ることができるとしたら?
第2巻では、かつてアイドルグループのメンバーだったスナックのママ、無実の人間に死刑判決をくだしてしまった裁判長、画期的な再生細胞を生みだした教授と美人助手といった人たちが登場。
あの日に戻ってステージで輝きたい、死刑判決を回避したい、恩師の汚名を晴らしたい……。時をさかのぼることで、これまで見えていなかった真実が浮かびあがり、予想だにしなかったベクトルへと転がり始める。
手垢のついた“やり直しモノ”だが、過去へ戻るには寿命10年分を支払うという設定が新味。
たとえば40歳の人が80歳まで生きるとすると、戻りたい過去へ飛ばしてもらった瞬間、40年の余命が30年に減らされてしまう。ハタチに戻ったら、50歳で逝くことになる計算だ。
恐ろしいのは余命が10年に満たない場合。なんと過去に戻った瞬間、その場で絶命するというのだ。どう考えてもリスクが大きすぎるのだが、ボレロを訪れる人たちはみなせっぱつまっているので、あっさりと10年分の寿命を差しだす。
しかも友郎カードを使えば3度まで戻りたい過去へ行けるのだが、そのたびに10年分の寿命が加算されてしまう。フルに使えば寿命が30年も減ってしまうのだ。
この足かせが、単に「人生をリセットできてラッキー」的なユルい展開を防ぎ、物語を締めてくれる。
「戻りたい年に作られたワインボトルのラベルに、依頼人みずからが日付を記すことでタイムスリップできる」というルールも洒落ている。
当然のことながら、依頼人全員がもうひとつの人生を幸せに過ごすわけではない。
それでも救いのない展開には振れず、どのエピソードも読み手を納得させてくれるラストが用意されている。このあたり、人間ドラマを書かせたらピカイチの原作者・北原雅紀の手腕が光る。
10年分の寿命を支払っても戻りたい過去、アナタにはありますか?
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てライター。内村光良監督の話題作『金メダル男』(今秋公開)の劇場用プログラムに参加しております。観てね!