365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
9月30日はアントニオ猪木とジャイアント馬場がデビューした日。本日読むべきマンガは……。
『グラップラー刃牙 外伝』
板垣恵介 秋田書店 ¥419+税
1960年9月30日は、プロレスラー・ジャイアント馬場(本名・馬場正平)とアントニオ猪木(本名・猪木寛至)の2人が、力道山が主催するプロレス団体・日本プロレスからデビューした日だ。
名レスラー・力道山の死後、新たなスターを必要としていた日本プロレスにおいて次期エース候補として注目されていた2人だが、「BI砲」と呼ばれるタッグチームを組んだことをきっかけに人気が爆発。一躍スターダムへとのし上がり、低迷しかけていたプロレス人気を再燃させた。
しかしその後、紆余曲折を経て2人は日本プロレスを退団。馬場は全日本プロレス、猪木は新日本プロレスという新団体を立ちあげ、袂を分かつことになってしまう。
プロレス界を牽引する2大レスラーであること、そして、その正反対ともいえるパーソナリティから、絶えず比較され続けた2人ではあったが、意外にも駆けだし時代を除くとマット上で激突したことはなかった。
そのため、ファンの間では「馬場と猪木はどちらが強いのか?」といった議論が交わされ続け、幾度も対戦の噂が立ったものの、その願いはついに果たされることなく1999年1月に馬場が病死。ドリームマッチは幻と消えてしまったのだ。
馬場の突然の訃報は日本全土を悲しみに包みこんだが、この逆境を受けてなお使命感に燃え立ちあがる漫画家がいた。その人物こそ、格闘技マンガの金字塔『グラップラー刃牙』(秋田書店)の作者・板垣恵介である。
馬場の訃報を知った板垣は、長期連載作品『グラップラー刃牙』を完結させた翌週 (逝去からわずか半年というタイミング!) から、急遽、短期集中連載作品『グラップラー刃牙 外伝』を開始。
『グラップラー刃牙』本編に登場していたサブキャラクターであるマウント斗羽(馬場がモチーフ)とアントニオ猪狩(猪木がモチーフ)を主人公にすえた本作は、「2人が東京ドームで秘密裏に戦おうとしている」との未確認情報に日本中のプロレスファンが激動するという内容で、現実ではかなわなかった大一番が迫力の筆致で描かれている。
「外伝」と銘打たれてはいるものの、独立した短編作品として見ても通用する高い完成度を誇っており、当時を知るプロレスファンも、知らないマンガファンもぜひ手に取ってもらいたい。
作者の「BI砲」愛があふれた衝撃のラストは、一見の価値ありだ。
<文・一ノ瀬謹和>
涼しい部屋での読書を何よりも好む、もやし系ライター。マンガ以外では特撮ヒーロー関連の書籍で執筆することも。好きな怪獣戦艦はキングジョーグ。