365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
10月6日は熊本県知事が新たに7人を「水俣病」患者として認定した日。本日読むべきマンガは……。
『幻冬舎文庫 銭ゲバ』 上巻
ジョージ秋山 幻冬舎 ¥686+税
1971年10月6日、熊本県知事が水俣病患者7人を新たに「認定」したことは大きなニュースとして報道された。
水俣病とは、熊本県水俣市の化学工業会社・チッソの工場の廃水に大量のメチル水銀が混ざっていたことに起因する公害病だ。
感覚障害をはじめ様々な症状があり、重度の場合は死に至る。命は助かったとしてもメチル水銀は脳・神経細胞を蝕み、全身の機能障害を引き起こし……人生をめちゃくちゃにする「人災」でありながら、被害者たちの救済には多大な時間がかかることになる。
最初の公式確認は1956年だが、その後認定基準が厳しくなるなど行政の対応は無慈悲極まりないものだった。
そして、いまだに新たに患者認定を求める人々は絶えないのである。
1970年から71年にかけて連載された『銭ゲバ』は、まさに当時の世相を反映した作品だ。
主人公・蒲郡風太郎の生まれ育った家庭環境は極貧そのもの。ろくでなしの父は憎しみの対象でしかない。そんなおり、やさしかった母が医療費が払えないために病死してしまい……風太郎は「世の中、金がすべてだ」と悟るのだ。
大企業の社長一家に取り入り、出世するためには殺人もいとわない。その手を血で染めながら、社長の椅子を手に入れる。
やがて、風太郎の会社が水俣病とまったく同じような公害病を引き起こすことになるのだが、風太郎は被害者たちの訴えも、マスコミの追究もまったく意に介さない。
そんなひどい人間がこの世にいるわけがないと思うだろうか。
しかし現実に水俣病のケースでも、得体の知れない症状に苦しみ世間から差別的な目を向けられた被害者たちに対し、企業は即座に歩み寄るのではなく自己保身をはかったのはあきらかなのである。
己のなかに銭ゲバが棲んでいないといいきれるのか。そんな問いを突きつける本作は、発表から半世紀近くが経とうとする今も大きな衝撃をもたらす。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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