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10月15日は「人形の日」 『少年宇宙』を読もう! 【きょうのマンガ】

2016/10/15


365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。

10月15日は人形の日。本日読むべきマンガは……。


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『少年宇宙』
岡野史佳 白泉社 ¥381+税


10月15日は「人形の日」となっているが、少々謎めいた事情がある。
1965年に日本人形協会と日本玩具及び人形連盟が制定したのだが、わずか7年後の1972年に「抜本的な検討を加える必要がある」として、積極的な活動が休止されたのだという。

「何かあったのか?」とドキドキしてしまったのは、筆者だけではないはず。なんせ人形はホラーの題材になりがちだ。
マンガならば代表例として『わたしの人形は良い人形』(山岸凉子)や、『百鬼夜行抄』(今市子)にも人形にまつわる身の毛がよだつ話がある。

とはいえ、人形を愛でるのは人間のいやしにもなる。
この日を祝うべく、人形たちが独自のファンタジー世界「トイズ・ヒル」にて過ごすさまを、繊細なタッチで描いた岡野史佳の『少年宇宙』をご紹介しよう。

緑の眼の少年コンラッド、黒猫のカノープス、白ウサギのルグリ、白髭のアンリ・フレアマン博士と若き助手のジャン・ジャリーなど、海外児童文学のような登場人物がそろっている。
トイズ・ヒルでは、空気には様々な色がつき、コンラッドとカノープスは水晶の林で鉱石採集をして遊び、拾った流れ星はお茶に溶かすとはじけてスパークリングティーになる。コレクション好きな博士の家では、化石が飾られ、小さな惑星が軌道を描いて浮遊する。魔法ものや幻想小説好きならば、絶対にときめくユートピアだ。

ほかにも読み切りでトイズ・ヒルを舞台にした短編が発表されてきたが、『少年宇宙』では登場人物たちの関係性が明らかになる。
ある理由で博士によって造られた最高級の自動人形(オートマタ)がコンラッドの正体、つまり、人形工房と同じ名を冠するトイズ・ヒルは、博士が生み出した夢のなか、との解釈もできる。
しかし、それは無粋に思える。コンラッドたちはここで「生きて」いるのだ。そもそも、生きている、とはどういう意味なのだろうか……?

見開いたガラスの瞳は宇宙を見続け、土から生まれた陶磁器の肌は鉱石と惹かれあう。
美しい人形を眺めていると、ふと光の粒子が降り注ぎ、トイズ・ヒルへいざなわれるような、想像の原石をくれる作品だ。

著者の岡野史佳は平成初期頃まで、同じくファンタジー風の『ハッピー・トーク』や恋愛マンガ『フルーツ果汁100%』などを精力的に発表したのち長らく活動を休止していたが、近年少しずつ新作も世に送り出している。『少年宇宙』に続く、トイズ・ヒルの物語がふたたび語られることを切望する。



<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。

単行本情報

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