日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ヒトミ先生の保健室』
『ヒトミ先生の保健室』 第6巻
鮭夫 徳間書店 ¥620+税
(2016年10月13日発売)
単眼(モノアイ)ヒロインの養護教諭・ヒトミ先生が、外見や体質に異形を持つ生徒たちのお悩み相談に乗る様子を描いた異色の学園マンガ『ヒトミ先生の保健室』。
最新の第6巻は、ヒトミ先生の弟が本格登場するほか、4つの腕をもつイケメン理科教諭・多々良先生とヒトミ先生が中学生時代に経験したせつないすれ違いの思い出話でドラマチックな掘り下げが行われる。
もちろん、異形キャラのエピソードもバラエティ豊か。
全身を長い毛に覆われた獣人体育教師がみせる驚きのイメージチェンジや、女性の乳房をもつ男子のあくなきおっぱい探求など楽しい話の合い間に、いきなり“自分たちがいるのはマンガに描かれた虚構の世界ではないか?”と生徒たちがメタフィクション論を展開する回を挟んでドキッとさせるなど、刺激を絶やさぬ攻めた姿勢がうれしい。
メタフィクション回は、そのテーマにふさわしく、コマの構成や空間を大胆にいじる演出がおもしろいほか、パロディ要素が入っているのも見どころ。
『デッドプール』(と、おそらく『ニンジャスレイヤー』のザ・ヴァーティゴ)を参照したようなキャラクターが狂言回しとしていい味を出している。
あと、プリキュアのパロディを単眼キャラで描いた商業作品ってこれが唯一無二ではないでしょうか……。
そして、本作の目玉ともいえる異形フェチ度の高さでは、なんといっても本巻収録の2話目にあたる第31話がイチオシだ。
あらすじだけ書けば「ふだんからお互いのことを気にしていた女の子同士が保健室で2人きりになって衝動的に身体を重ね、気持ちを確かめあう」という、ザ・百合の秘めごと!な内容なのだが、その2人というのがすごい組みあわせ。
ひとりは、8本足をもつ“蛸足系女子”の奥藤さん。 もうひとりは、顔全体に大きな穴がぽっかり開いている(!)“顔孔系女子”の大久保さん。
少女の腰下でうねる触腕が別の少女の顔面にじゅぶじゅぶ吸い込まれるさまはあまりに異様で、しかし同時に、思春期まっさかりの子供たちがおさえきれない昂ぶりを寄せあう姿としてはどこか普遍的な説得力をかもしだしているのが不思議ですばらしい。
表情が物理的にないため気持ちを読めず恐ろしげにも見える大久保さんが、奥藤さんの理解を通して、ひとりの多感な女子中学生として親しみやすい人物像に着地する流れはほほえましく、ほのかに感動的でさえある。
というわけで、『ヒトミ先生の保健室』最新巻。
今回もますます、異形っ子がいとおしくなる内容です。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7