日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ヨルとネル』
『ヨルとネル』
施川ユウキ 秋田書店 ¥562+税
(2016年10月20日発売)
『バーナード嬢曰く。』、『サナギさん』などで知られる施川ユウキによる、4コマ形式の連作ストーリー。人間の目から逃れて隠れ住む2人のこびとヨルとネルの逃避行を描く。
マフラーがトレードマークのヨルは、決断力に優れるリーダー格。
だが、クールに見えて意外と涙もろい。
ニットキャップをかぶったネルは、ちょっと怖がりで心配性。
ヨルのジョークに振り回される次男坊気質。
2人は「生体科学研究所から逃げ出した2体のモルモット」で、「身長約11センチのヒト型で共にオス」であることがテレビのニュースで伝えられる。
同時に「高病原性ウイルスを保持している可能性」も示唆されるが、それは偽の情報らしい。
ヨルとネルは親友で、普通の人間だった過去を持っていた。
追跡から逃れながら、2人は南の海を目指す。
『バーナード嬢曰く。』のさわ子としおり、『サナギさん』のサナギさんとフユちゃん、『オンノジ』のミヤコとオンノジ同様、『ヨルとネル』でも2人の漫才的やり取りは軽妙。
描かれる「こびとあるあるネタ」の数々には思わずクスリとさせられる。
11歳のコンビという年齢設定もいい。
雨よけのために葉っぱのカサをさすのがあまりにベタなこびと的行為だと照れたり、落ちているタバコを吸ってみようと背伸びしたりほほえましい。
大きさ的に隔絶された世界のなかで、非日常に身を置くただ2人のこびと。
2人の逃避行は、一種のブロマンスものとしても楽しめるのではないだろうか。
しかし、政府安全局の追跡は終始シリアスなトーンで描かれる。
メルヘンめいた2人の前に突如突きつけられる現実は、往々にしてグロテスクで生々しい。
ネズミの死骸、橋の上にそろえられた靴、道端のイヌのフン。
この物語が単なるファンタジーで終わらないザラついた予兆を感じさせる。
だれもいない世界に暮らす少女・ミヤコと、フラミンゴの姿をした少年・オンノジの行く末を描いた『オンノジ』と、対を成すような作品だ。
<文・秋山哲茂>
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』、『ドラえもん深読みガイド』(小学館)、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進!』(徳間書店)など。構成を担当した『てんとう虫コミックスアニメ版 映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』が発売中。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士(見習い)。