『バーナード嬢曰く。』
施川ユウキ 一迅社 \619+税
4月2日は「図書館開設記念日」。
1872(明治5)年のこの日に、日本で初めての官立公共図書館である「書籍館」(「しょせき」ではなく「しょじゃく」と読む)が、東京・湯島の湯島聖堂内に開設されたことにちなむ記念日。
そしてフィクションの世界では、図書館が舞台となったり、あるいは重要な役割を果たす作品というのはかなり多い。
そりゃあ本を書く側はもともと本が好きな人が多いでしょうから、そうなるのも至極当然。特にミステリーの分野では異常に多いような気がします。
もちろんマンガでも『図書館の主』や『夜明けの図書館』といった作品が知られていますが、今回はむしろ、あまり本を読んでない人のほうが圧倒的に共感できるかもしれない、施川ユウキの『バーナード嬢曰く。』を紹介したい。
厳密には「図書館」じゃなくて「図書室」が舞台ですけどね!
単行本の表紙にあるのは、作中から引用された1コマ。
『カラマーゾフの兄弟』を手に「一度も読んでないけど私の中ではすでに、読破したっぽいフンイキになっている!!」と、ガチの読書家の人からすれば「コイツ、殴りてぇ!」と思われそうな1コマだが、まさにそんな「本を読まずに読書家と思われたい」というダメすぎる図書室の常連たちの文学ギャグが本作。
そもそも「バーナード嬢」とか自分から愛称を言い出してるのがアレなのだが、「難しそうな本を読んでるアピール」とか「映画化された作品に原作知ってるアピールでダメ出し」とか、誰しもちょっとは身に覚えがあるような「あちゃー」という感じを体現するバーナード嬢がじつにキュート。
さらに、彼女とは逆に「メンドクサイSF者」でもある読書家の神林しおりが登場してから、温度差の違いによっておもしろさに拍車がかかる。
グレッグ・イーガン(※難解なことで定評のあるSF作家)をすすめられ、「よくわからないけど、よくわからなくていいってコトは よくわかった気がする……!」というバーナード嬢のリアクションなどはあまりにも秀逸。もちろん、その後どうなるのかはお察しの通りなのだが……。
それにしても、こういう学校の図書室のユルい空気をうま~くすくっているなぁと、いとおしくなる人は多いんじゃないでしょうか。
まぁ、まじめに図書館の歴史をひもとくと、「平和な時代に生まれてよかった……。」なんてことをしみじみ思うような思想統制との戦い(リアルに『華氏451度』だとか『図書館戦争』みたいなことが!)もあったりするのですが、『バーナード嬢曰く。』のようなほのぼのした図書室ライフをいつまでも楽しみたいものです。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。