365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
11月11日はチーズの日。本日読むべきマンガは……。
『銀の匙 Silver Spoon』 第8巻
荒川弘 小学館 ¥419+税
11月11日は、日本輸入チーズ普及協会とチーズ普及協議会が制定したチーズの日のうちのひとつだ。
文武天皇が700年の旧暦10月に「穌(そ)」(「蘇」とも書かれる)と呼ばれる古代のチーズ製造を命じたことから、現在の近い日付で覚えやすい日に置き換えて、この日になった。
古代日本において牛乳は貴重品であり、それを煮つめて作るチーズというのはほんの一部の人しか口にできない、たいそうなぜいたく品だったようだ。
そんな歴史を踏まえて、八軒勇吾をはじめとする、北海道の農業高校生の姿を描く『銀の匙』に登場するチーズを見てみよう。
本格的なチーズ作りは、高校生には難しい。
しかし、八軒たちの熱心な(というか執拗な)調査により、仏のようにありがたい顔を持つ馬術部顧問の中島先生が、学内の秘密の工房で作っていることが判明する。以降、チーズ大好きで自分の工房を開く夢を持つ、八軒のクラスメートである女生徒・吉野まゆみがことあるごとにチーズを強奪し、とうとう熟成室が空っぽに!
さて、第8巻では八軒や吉野らが、中島先生のチーズ作りに巻きこまれる。
作るのは「ラクレット」(アニメ『アルプスの少女ハイジ』でパンにからめて食されていた、あのチーズに近いもの)。その工程は温度管理や菌混入防止にとても気を使い、体力もいる作業だが、段階ごとに変わる味や製法のおもしろさは、大いに八軒たちを魅了した。
このラクレット、仕込みにまる1日、以降もブラシかけなどの世話を経て、出来上がるのに3カ月……と、人の手がふんだんにかけられた食品なのである。
チーズは、種類によっては熟成に5年ほどかかるものもあるそうだ。もちろん、熟成中も放置するわけでなく、温度や湿度も管理しなくてはいけない。
今でこそ、チーズは身近な食べ物だ。しかし『銀の匙』を読むと、やはりぜいたくなものだと気づかされる。くわえて、この直後に酪農家の厳しい現実が語られるため、なおさらだ。
『銀の匙』は長い休載を経て、今年夏に新作が数本連載されたといううれしいニュースもあった。登場人物それぞれが未来に向かって歩き出す姿が垣間見えている。
チーズを愛し、派生物である「ホエー」にも目を向け、フランスへも旅立つしっかり者・吉野まゆみの手にかかれば、酪農界全体が盛り上がるような素敵なチーズ工房が開けそうな予感がしてくる。
まあ、中島先生(ついでに八軒も)が何かと踏み台にされそうではあるが。
<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。