日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ』
『乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ』 第7巻
大西巷一 双葉社 ¥620+税
(2016年11月11日発売)
『乙女戦争』は、人類史上初めて銃が実戦使用された15世紀中央ヨーロッパ、「フス戦争」を描く作品。世界史に明るい人に話すと「フス戦争は熱い」といわれるのだが、その理由をひと言で表現するならば、「ヨーロッパの織田信長みたいな奴が出てくる戦争だから」だろう。
当時のヨーロッパで支配的だったカトリック教会と貴族諸侯たちの権力に対抗する、フス派という新しい教えを信奉する人たちの陣営に、ヤン・ジシュカという天才が現れる。
ジシュカこそ、それまで実用性が乏しいといわれていた銃を実戦に投入し、適切に使用し、最大の効果を引き出した人物だ。
本作でも、奇抜な作戦で権力側の多勢の騎士たちを、反乱軍が蹴散らすジシュカとその指揮下の人々が描かれている。
本作がすばらしいのは、ジシュカ個人の英雄譚ではなく、ジシュカと出会い見出されたひとりの少女の視点で物語が進行する点だ。暴力と憎悪が吹き荒れる戦時下の中世世界において、ひとりの少女であることがいかに過酷なことなのか。
ジシュカの指揮による胸のすくような戦勝の喜びと、戦いが続くかぎり終わらない少女たち弱者の凄惨な運命。
フス派の軍よりも10倍も多くの人数を揃え、乱の鎮圧を望む領主たち貴族諸侯連合「対フス派十字軍」をジシュカと少女たちはどのように撃退するのか。
また、戦局が長引くにつれて、ジシュカ側の統率も崩れ始めている(何しろ今回はジシュカ自身がフス派軍を裏切って十字軍側に寝返る!)。
予告によれば、次巻ではとうとうフス派軍が分裂するらしい。
どんなにひどい目にあっても希望を失わずにいようと励ましあう主人公たちだが、史実ではフス派の宗教改革は鎮圧されてしまう。
毎巻、短いながらになかなか勉強になる歴史読みものが巻末についているのもうれしい。
作中に描かれた史実と異なるエピソードなどについても正直に書いてあるので、どこがフィクションで、著者にどういう意図があったのかを考えるのも楽しい。
ちなみに、今回の巻末の読みものは本作の一貫したテーマのひとつともいえる「戦場での性暴力」を取り上げており、そこでの著者の筆によると、現代の苛烈な事例などを作品の表現の参考にしているとのこと。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
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