日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『海獣さん』
『海獣さん』 第1巻
高梨みどり 秋田書店 ¥619+税
(2016年11月16日発売)
ラッコにイルカ、ペンギンにアザラシ……水族館好きにオススメのお仕事マンガが登場だ!
主人公の小波林海子(おばばやし・うみこ)さんは45歳のシングルマザー。
別れた夫からの毎月の振込は微々たるもので、働かなくては高校生の息子と暮らしていくことはできない。
パート先のお弁当屋さんが閉店することになり、新たな職を探し始めたが、この年齢で学歴なし、資格なしの身ではかなり厳しい。
それでも前向きな海子さんは、水族館の海獣トレーナー募集に応募する。
資格不要ということで気軽に試験を受けた海子さんだが、この職はたいへんな狭き門。
大学や専門学校で知識を学んだ若者たちのなか、海子さんはたぐいまれなる適性を見抜かれて見事採用に!
懐深い海子さんのまなざしは、動物たちに安心感を与え、言葉はなくとも通じあえる不思議な力を持っているようだ。
そんな海子さんの心根はスタッフ仲間にも、そしてお客さんにも届いて……。
海子さんの一人息子・光一は現在ひきこもり中で、学校に行けないばかりか部屋から顔を出すこともない。
しかし、決して光一を急かしたりはせず、食事の支度をしながらドア越しに話す海子さんの笑顔に、読みながらあたたかい気持ちに包まれる。
水族館のお仕事も、母としての役割にも一所懸命。謙虚だけど思ったことははっきりいう。
人生の喜びも辛さも知っている海子さんの強さと優しさこそ、どんな学歴にも勝る大きな財産だ!
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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