日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『実は私は』
『実は私は』 第20巻
増田英二 秋田書店 ¥429+税
(2016年12月8日発売)
同じクラスの少し影があってミステリアスな雰囲気を持つ白神葉子に恋をした黒峰朝陽。
葉子はじつはハーフの吸血鬼で、吸血鬼であることがバレたら学校を辞めなくてはならない。卒業は葉子の両親が果たせなかった夢でもあった。
穴の開いたザル=アナザルと呼ばれるほど思っていることが顔に出やすいダダ漏れ体質の朝陽だが、好きな人の秘密を守るために懸命に隠し通す。
告白の末白神とつきあうことになった朝陽。なんとか秘密を守りながら学園生活を送る2人も2年生から3年生に進級し、高校生活も残すところあとわずか。2人はこのまま無事に学校を卒業することができるのか…!?
そんな『実は私は』は2013年から「週刊少年チャンピオン」で連載されている「ちょいアホ人外ヒロインラブコメ」。2015年にはテレビアニメ化、2016年に舞台化もされた人気作品だ。
とにかく出てくるヒロインが基本的になんらかの「実は私は…」という秘密を隠しているのがこの作品の特徴。
「クールビューティー」を自称するメインヒロインの白神葉子も常におなかを減らしていて、間が抜けており、周囲の人間からは「くーるびゅーてぃーw」と草を生やされるような性格。
カタブツの委員長・藍澤渚は「実は宇宙人」だし、葉子の幼なじみの紫々戸獅穂は「実は狼男」だし、生徒会長の銀華恋は「実は堕天使」だし、1年生の黄龍院凛は「実は未来人」という具合。
かつ全員、どこかしら抜けた部分があるポンコツとして描かれているのがいい。
ちなみに校長の紅本茜は「実は角悪魔」なのだが、この高校に人間以外の存在が多く集められているのは茜の意志による。
そんな『実は私は』がクライマックスにさしかかり、盛り上がりまくっている。
この巻では、葉子の父・源二郎がかたくなに人間を信じない理由を知るため、20年前の世界に朝陽が送られる。
そこで朝陽が出会ったのは、諸晴高校に通う吸血鬼の白神源二郎と人間の緑苑坂桐子。高校時代の葉子の両親だった。
卒業を間近に控え高校生活を楽しむ2人に自分たちの姿を重ねる朝陽。
友人たちに囲まれ幸せそうな源二郎の姿に安心する朝陽だったが、そこにかつての茜の教え子であり、この時代の校長を務める雪女・白雪が現れる。
彼女は明確な悪意をはらんで源二郎のなりゆきを見守っていた。
人間と暮らそうとした人ならざる者の愚かな見せしめとして。
まわりの人が隠し持つ「実は私は」という秘密に触れ、いつしか朝陽と葉子は立場の異なる者の間に入っていっしょに悩んだり手助けをしたりする仕事、教職を目指して進学を考えるようになっていた。
そんな朝陽にとって、源二郎が孤立する結末はとうてい認められるものではない。
「誰にでも秘密はある 生まれ 育ち 趣味 嗜好 主義 思想 過去 未来」
「その多くが人との違いを隠すため 奇異の目で見られぬため 己を守るため秘密を守る」
「だがキサマは学んだはずだ黒峰 その秘密がその者のほんの一部でしかないことを」
茜の言葉に後押しされた朝陽は、2人を無事に卒業させようと奔走するが…!?
『実は私は』には、生きていくうえで大切なものがいくつも指し示される。
基本へっぽこした連中がドタバタと繰り広げるコメディなだけに、時おり見せるシリアスな顔がことさら印象に残る。
今ならまだ間にあう!
今すぐ全巻読んで、リアルタイムの連載に追いついてほしいっ!
過去は変えられなくとも、未来は変えることができるのだから。
<文・秋山哲茂>
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』、『ドラえもん深読みガイド』(小学館)、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進!』(徳間書店)など。構成を担当した『てんとう虫コミックスアニメ版 映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』が発売中。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士(見習い)。