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『探さないでください』 中川学 【日刊マンガガイド】

2017/01/14


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『探さないでください』


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『探さないでください』
中川学 平凡社 ¥1,000+税
(2016年12月19日発売)


自身のくも膜下出血体験を描いた壮絶&恥ずかしすぎる実録マンガ『くも漫。』が実写映画化(今年2月公開予定)されるなど、大きな注目を集めている中川学の最新単行本。
やはりというか、こちらも実録モノで、なんと『くも漫。』前夜の失踪体験を描いたものである。

数学教師として勤務していた中学校を失踪して15年。紆余曲折をへて、見事に漫画家となった著者が、逃げっぱなしの黒歴史に決着をつけるため、失踪した道のりを旅しながら当時の記憶を呼び戻す――。
北海道内をさまよった末に、本州に渡り、そして尾道へ……。地味ながらもスペクタクルな逃走劇は、読む者の胸を締めつける切迫感と同時に、淡々としたおかしみがただよう。

だれもが一度や二度は、今の状況から逃げ出したい! と思ったことはあるだろう。
だが、つげ義春よろしく、逃避というものは非リアルだからこそ甘美なわけで、実際に逃げることはなかなかできないし、実行してしまったら最後という気もする。

実際、著者も取り返しのつかないことをしてしまったという自責の念を持ち続け、当時、迷惑をかけた人とおそるおそる会うのだが、そこで思いがけない人々の優しさに触れ、そんな優しさを予想できなかったのは、ほかでもない自分が人に厳しかったからだと気づき、優しい人間になろう! と決意する。
そんなくだりには「自己責任」という言葉のもと他人を責め、ついには自分自身をも追いこんでしまっている社会の世知辛いカラクリを目の当たりにする思い。

「死ぬぐらいなら逃げろ」を推奨する風潮が高まっている今だからこそ、必読の1冊。
人間、逃げることで失うものもあるが、得るものもきっと、ひとつやふたつあるに違いない。



<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69

単行本情報

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