『夢の雫、黄金の鳥籠』第5巻
篠原千絵 小学館 \429+税
(2014年8月8日発売)
物語は16世紀、最盛期を築いたスレイマンがオスマントルコ帝国皇帝に即位した直後から始まる。
主人公・ヒュッレムは、奴隷として売られるところをギリシャ商人・マテウスに見いだされ、スレイマンに献上される。後宮(ハレム)の住人となった彼女はスレイマンの寵愛を受け、第一夫人・ギュルバハルとの間に確執が生じていく。
女の情念渦巻く後宮では、激しく醜い権力争いが常。命まで狙われるヒュッレムだが、屈することなくやり返す気丈さは見ていて爽快! あくなき好奇心、知性と教養を備える彼女に、グッと惹きつけられる。
そんなヒュッレムを苦しめるのは、マテウス……じつは皇帝の小姓頭であるイブラヒムへの想い。絶望的な許されぬ恋ながら、スレイマンの遠征を機に2人は一夜をともにしてしまう。
大罪を犯した2人の行く末にドキドキが止まらない本巻では、いよいよヒュッレムが懐妊。
折しも、スレイマンはさらなる領土拡大を目指してロードス包囲戦へと外征。イブラヒムもまた、手柄を立ててヒュッレムを下賜されんとの想いを胸に随行する。そんなイブラヒムの帰りを待つヒュッレムに、懐妊でますます敵意露わなギュルバハルが再び迫る……。
史実を絡め、実在の人物によって繰り広げられる物語は、華やかながら自由のない後宮を中心に、陰謀や駆け引きの連続でまさに息つかせぬ展開。心理描写に定評のある篠原千絵氏が描く人物たちは表情豊かで、後宮の女の嫉みそねみが迫真に迫る。
ただひとつ、私的見解で恐縮だが……若き皇帝・スレイマンがあまりに気っぷがよく、才と野心あふれるイケメン(つまり男として完璧)のため、何ゆえヒュッレムはそこまでイブラヒムに傾くのか、スレイマンで十分じゃないかあ~! と思ってしまう。あぁ、スレイマン様がもっとイヤ~なキャラならいいのに……。
さておき、愛と冒険に満ちた“現代の千夜一夜物語”ともいうべき歴史大河ロマンに、この夏どっぷりと浸ってみては。
<文・藤咲茂(東京03製作)>
美酒佳肴、マンガ、ガンダム、日本国と陸海空自衛隊をこよなく愛し、なんとなくそれらをメシのタネにふらふらと生きる編集ライター。