日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『水木しげる漫画大全集 貸本版悪魔くん』
『水木しげる漫画大全集 貸本版悪魔くん』
水木しげる 講談社 ¥2,500+税
(2017年1月5日発売)
「水木しげる漫画大全集」シリーズの最新刊。
1963年から1964年にかけて東考社(辰巳ヨシヒロの実兄・桜井昌一の出版社!)から貸本向け単行本として書き下ろされた『悪魔くん』3冊をまとめた物である。
悪魔くんといえば一般的には、「週刊少年マガジン」で連載された『悪魔くん』(本全集48巻)や「週刊少年ジャンプ」で連載された『悪魔くん復活 千年王国』(本全集49巻、50巻)、テレビアニメの原作となった『「コミックボンボン」版悪魔くん』(本全集52巻)が思い出されるが、貸本版はそれら作品のベースとなったもので、本作なくしては悪魔メフィストの活躍も百目の子どもも存在しなかったばかりか、水木作品のアニメ・実写ドラマ化もなかったかもしれない、いわば水木ワールドの原点ともいえる作品なのだ。
悪魔の力を利用して、貧乏人も金持ちもない人類みな平等のユートピアを目指す『悪魔くん』の物語には、当時貧乏のどん底にあった著者の社会への怒りがたしかにある。
作品としての完成度やエンターテインメント性という意味では、後年の『悪魔くん』に軍杯が上がるが、ベタの多い荒々しいタッチがかもし出す、おどろおどろしい吸引力は、やはり貸本版ならではの魅力だろう。
全5巻の予定が、人気が出なかったため第3巻で打ち止めになったという本作。
願わくば、このタッチで全5巻を読みたかった……と夢想しつつ、いろんなヴァージョンの『悪魔くん』を読み比べられる幸せをあらためてかみしめたい。
知られざる妖怪エピソードに言及した、諸星大二郎の解説も必読!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69