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『田中圭一のペンと箸-漫画家の好物-』 田中圭一 【日刊マンガガイド】

2017/01/29


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『田中圭一のペンと箸-漫画家の好物-』


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『田中圭一のペンと箸-漫画家の好物-』
田中圭一 小学館 ¥1,080+税
(2017年1月12日発売)


有名漫画家の好物料理を、ご子息・ご息女に語っていただき、取材結果を田中圭一がその漫画家さんの絵柄で描くというグルメレポートマンガ。
ウェブサイト「ぐるなび」のコーナー「みんなのごはん」の連載中から評判を呼んでいた企画がついに1冊にまとまった。

登場する漫画家は23人。
ちばてつや、手塚治虫、赤塚不二夫、山本直樹、西原理恵子、ジョージ秋山、江口寿史、吉沢やすみ、池上遼一、いがらしゆみこ、魔夜峰央、ゆでたまご(中井義則)、中島徳博、上村一夫、かわぐちかいじ、矢口高雄、諸星大二郎、石坂啓、平松伸二、相原コージ、うえやまとち、畑中純、永野のりこ(本作での登場順)――と大家からカルト的な人気を持つ描き手まで、幅広い顔ぶれが登場する。

23人のエピソードは、すべて興味深いのだが、双璧は吉沢やすみと中島徳博の回だと思う。
吉沢やすみに関しては、長女・大月悠祐子が『ど根性ガエルの娘』としてマンガ化しているが、本作ではレントゲン技師の道を選んだ長男・吉澤康宏氏をゲストとして、吉沢やすみの苦闘と再生の物語を描いている。
中島徳博の回では、中島と担当編集者・後藤広喜との『アストロ球団』をめぐる、「一作完全燃焼」ともいうべき熱いやり取りに心を動かされる(中島が逝去した際の弔辞は、後藤が読んだ。
それだけ深い交流があったということだ)。

登場する料理も様々である。魔夜峰央のおふくろの味である「ぶりの握り」や、池上遼一の実家から届く「越前ガニ」といった豪華なものから、食べ終わった煮魚の上にお湯をかけて飲む「こづゆ」(ちばてつやの回)や、食パンにしょうゆで絵を描いて焼く「パパパパパンパン」(上村一夫の回)といった素朴なものまで、じつに幅広い。そうした料理は、漫画家さんの個性と結びついて、非常に強い印象を与えてくれるのである。

ところで、手塚治虫や本宮ひろ志の絵柄をまねて、数々のギャグマンガを仕立ててきた田中をもってしても、本作は「毎回悪戦苦闘の連続」だったようだ。特に、山本直樹、上村一夫、諸星大二郎の3人は難しかったようだが、それをどのように乗りきったかは、巻末の「漫盗-あとがきにかえて-」で確認してほしい。

いずれにせよ、これぞまさに田中圭一にしか描けないマンガ。
登場していない漫画家さんは、まだまだいるので、続編を期待したい(田中圭一にとっては、大変だろうが……)。



<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。

単行本情報

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