日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『駄能力JK成毛川さん』
『駄能力JK成毛川さん』 第2巻
菅森コウ 小学館 ¥630+税
(2017年1月12日発売)
いわゆる「妖怪」の末裔が人間と同じ姿で社会に紛れこんでいる、現代の日本が舞台。
“彼女ら”は種族にねざした超能力をひそかに使って、人々の生活に不思議と驚きを提供し続けていた。
だが、妖怪にも様々な種類がある。
喜怒哀楽に感情が揺れるたび大雨がふるので無理やりクールキャラにならないといけない「妖怪・雨おんな」、ひとが風呂場で目をつぶって頭を洗う時に、ステルスモードでつきそう「妖怪・シャンプーしてると背後に気配」……。
ろくな役に立たない能力を抱えたマイナー妖怪は、自虐まじりに自分たちの力を「駄能力」と形容する。
成毛川蒔乃(なるもがわ・まきの)も、その「駄能力妖怪」のひとりだ。
いち女子生徒として高校に通い、成績優秀で優れた容姿を持つ才色兼備ぶりにより、だれからも好かれる優等生だが、じつは人知れず妖怪としての本能に振りまわされる存在でもあった。
種族名は、「妖怪・ちんげちらし」。えっ?
特殊能力は、他人が落とした陰毛を集めて瞬間移動させ、ソファの隙間やらコンロの近くやら、ありえないところに再配置させるという、陰毛キャッチ&リリース能力である。ええっ!?
しかもこの種族、惚れた相手の陰毛にやたらと執着する性向があるという。
成毛川さんの場合は、同じ学校にかよう純朴な男子、里中くんの毛を拾いたくて拾いたくてたまらない衝動につき動かされており、ことあるごとに正気を失いかけてしまう。とんでもねーな!
いちおう、大好きな男の子を射止めるために作戦をねり、がんばって実行に移すがいつもウブな純情で右往左往して失敗する少女の日常ドラマ……という意味では非常にオーソドックスなラブコメではある。 ただ、射止めたいのが男の子のハートだけでなく陰毛も含むというだけのことで……いやとんでもねーよ!
劇中であまりにも「陰毛」「陰毛」と連呼されるので思わずカウントしてみたら、第1巻だけで総計94回、セリフやナレーションに「陰毛」の字句がおどっていた(本編87回、おまけマンガ7回。
うち1回は「インモウ」表記)。前代未聞な作品である。
最新の第2巻では「陰毛」カウントは25回と急減しているのだが(いや多いよ)、これは成毛川さんの出番がない回、つまりほかのヒロインのメイン回が増えたためだ。
イチオシは、成毛川さんの親友で「妖怪・リモコン隠し」の川島さん。
ひとの手もとにあったリモコンをあらぬ場所へ移動させるという駄能力を持った現代妖怪だ。
見た目ちょっぴりヤンキーめいた強気娘だが、3人姉弟の長女として弟たちの世話をする日々にお疲れ気味の、いい子でもある。
そんな彼女が、面倒見がいい里中くんのお兄ちゃん的優しさに触れ、疑似的な兄妹関係に甘えるエピソードがたまらない。
女子高生が同じ学年の男子とこっそり「お兄ちゃん」、「妹」と呼びあう図には、一面的な恋愛の枠からハミ出した感情の深い味わいがある。
とんでもない題材を入り口にしつつ、ヒロインそれぞれが独自のかたちで慕情にゆれる上質なラブコメ群像を掘り下げる本作。続巻が今から楽しみだ。
待ちきれないひとは「やわらかスピリッツ」のWEB連載に合流しちゃいましょう。
以下余談。
里中くんが次々と妖怪ヒロインにモテていく立場が何かを連想させるなあ、と思ったら、第1巻のあとがきで影響元が言及されていた。
著者いわく、“人外おなご”への愛着を培ったのは「美人のおねーさんがスケベな助手とともに300万円のお札で除霊を行う某作品」だったとのこと。
ああー、なるほど、つまり『GS美神 極楽大作戦!!』の横島くんポジションですね。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7