日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『魔女のやさしい葬列』
『魔女のやさしい葬列』 第2巻
黒釜ナオ 徳間書店 ¥620+税
(2016年12月13日発売)
『魔女のやさしい葬列』、英題は『Last flowers for Lilith』(直訳すれば「リリスのために手向けた花々」)だ。
本作に出てくる「魔女」は、いわゆる魔法使いでもなければ、箒に乗って飛んだりはしない。
舞台は19世紀ロンドンの陰気なブレイロック骨董店、主人公はそこの店主・ブレイロックと、彼が育てている少女・リラ、そして店のあるあたりの人々に慕われている花売り娘・ナンシーの3人。
16歳にしてガメツく「銭がすべて」とうそぶき「銭の魔女」と呼ばれるナンシーが、じつは人情に厚いところがあって……という本作のほほえましい側面に対して、本作の闇の部分はブレイロックとリラの正体のほうに関わってくる。
少女というより幼女に近い外見のリラは、ある時ナンシーに
「裸んぼで『お客さん』を抱きしめてあげるの
みんな喜んでくれるよ~ みんなグッスリ眠れるの」
といってウットリとする。
その様子を見て、ブレイロック骨董店の真の姿は娼館であり、リラはそこで無知につけこまれ働かされているのではないか、と疑う。
しかし、闇は別の方向に深いのだった。
ブレイロック骨董店の真の姿は不可思議の部屋(ヴンダーカンマー)とも魔法の店(マジックショップ)とも呼ばれる特別な場所「ザ・キャビネット」であり、ブレイロックは、そこにとある人々をおびき寄せている。「ある人々」とは、ヴルコラク(同胞)を名乗る者たちのこと。
ブレイロック自身もそのひとりと名乗っているこのヴルコラクたちは、「協会」(サークル)を作り、ひとり1頭のシスカ(不死鬼)と呼ばれる不死者を連れている。
五感も発声も、時には動くことさえもままならなくなりながら、何百年も生きている。
シスカの血を飲むことで、ヴルコラクたちは長命を得ている。
ブレイロックはヴルコラクとシスカをおびき寄せ、リラの正体であるリリスにシスカを喰わせていたのだ。
リリスは「夜の女」、「母なる夜」、「ラミア」とも呼ばれるシスカの始祖だという。
タイトルに書かれていた「魔女」とは、本当は彼女のことなのかもしれない。
1年半ぶり、待望の第2巻となった今回、第3の「魔女」が登場する。
シスカを死によって救済しようとするブレイロックとリラとは真逆に、ヴルコラク以上の長命、いや永遠の命を得るために〈協会〉の支部すらも壊滅させる「伯爵夫人(カウンテス)」。
彼女もまた、ブレイロックの待つロンドンへと引き寄せられてきた。
実在の人物をモデルにしたという、おのれの欲望にあまりにも忠実な楽観主義者で、恐ろしいくらいに魅力的。
世界帝国の中心の貧民として下層に生きる花売り娘にして「銭の魔女」であるナンシーと、ブレイロックとともにシスカを救済するため死を与え、シスカを利用する〈協会〉とヴルコラクを根絶やしにしようとする「夜の女」リリス(リラ)、そしてみずからの永遠の命のために〈協会〉を襲い、ヴルコラクですら殺戮していく伯爵夫人。
この人間、シスカの始祖、ヴルコラクという3種類の「魔女」たちが、どのような「葬列」を見せてくれるのか、これからも目が離せない。
<文・永田希>
書評家。サイト「Book News」運営。サイト「マンガHONZ」メンバー。書籍『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』『このマンガがすごい!2014』のアンケートにも回答しています。
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