日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ぽちゃこい』
『ぽちゃこい』 第1巻
ムラタコウジ 日本文芸社 ¥593+税
(2017年1月19日発売)
正午に近づくオフィスの時計をチラ見する25歳OL・丸山杏の頭のなかは、お昼に何を食べるかでいっぱいだ。とんかつ定食、こってり濃厚とんこつラーメン、それとも煮込みハンバーグ定食? 食べることが大好きな彼女は152センチ、75キロのぽっちゃり女子である。
そんな杏がダイエットを決意したのは、向かいの席のイケメン・沢谷くんにつりあう女の子になるため。沢谷くんは、杏が大食いっぷりをからかわれても「いっぱい食べる人って元気でいいと思うよ!」なんてさわやかかつ明るくフォローしてくれるいいヤツで。
脈アリのようにも思えるけれど、後輩の長澤甘美(160センチ・48キロ)も彼にあからさまにアプローチしているからグズグズしてはいられない。
一念発起したものの、大らかで楽天的な性格だから、あの手この手のダイエット計画ものきなみダダ崩れ。しかも、減食がうまくいきそうなときに限って沢谷くんにピザ食べ放題やらドーナツショップに誘われて……(これも“ダイエット失敗あるある”のひとつ)。
なにしろ沢谷くんは、杏がおいしそうに食べる――「うん まー!!!」とはじける笑顔を見るのが大好きなのだ。
社長の甥っ子で帰国子女のオラ王子五月(なんちゅー名前だ!)も、当初は杏を「デブ」、「ブタ」と容赦なくののしっていたものの、次第に「うん まー!!!」の虜に。
絶妙に描き出される杏のコロコロ変わる表情こそ本作の大きな魅力だ。
ハイカロリーな食べ物を前にしたときの警戒心とトキメキ、逡巡を経て訪れる至福の「うん まー!!」のかわいさは、そろそろ来るぞとわかっていても楽しみでしょうがない。
いやぁ、食べるって楽しいよね、幸せだよね!
本作のノリが気に入った方は、同著者の『てのひらにアイを!』(既刊2巻)もぜひご一読を。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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