日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『猫とごはんと装丁家』
『猫とごはんと装丁家』 第1巻
私屋カヲル 新書館 ¥590+税
(2017年1月25日発売)
本のデザイナー、多津美。妻と別れてひとり暮らし。才能はあるのに自信がない。
「カバーのせいで売れなかったらどうしよう」といつもヒヤヒヤしている。
いっしょに組んで働いている萩。
チャラチャラしていてお調子者の男性。自信家であると同時に、強気に多津美をはげます編集者。
多津美のアシスタント・経理としてやってきた、超しっかりものの女性・あさこ。
多津美のよき理解者。
3人で、作家の表紙を最高のものにするべく、頭をひねり続ける。
本の装丁は、売上にダイレクトに響く。
特に小説・エッセイなどのハードカバー単行本をメインに扱う多津美、ネットを使わず書店でひょろっと買うタイプの年齢層がターゲットなだけに、表紙で釣らないとどうにもならない。
だからこそ、多津美は自分のデザインにいつも不安だ。
ここに、帯を入れる荻と、冷静にはげますあさこが加わることで、デザインに豊かさが出てくる。
自信を奮い立たせる。
たとえば老齢の女性作家の上下巻自伝小説。歴史、女、国、戦争。盛りこむテーマが難しすぎる。
悩みまくる彼を、萩は「『才能ない』なんて……あなたを買ってるオレに失礼です」と、力強くたきつける。祭で出会った浴衣のあさことの会話のなかで、多津美はヒントを得る。
できたのは、本そのものが戦火を乗り越えた、上等な着物のような本。
装丁作業の際、煮つめすぎてもいいものはできない。
そこで「猫」と「ごはん」の出番だ。
あさこが特においしいもの好きなので、多津美に毎回何かを食べさせる。
この「視点のリセット」が、各話のいい切り返しになっている。
多津美の飼っているタクロー。ぼってり太った猫。
物語的には現時点ではそれほど重要な役まわりではない。
ただ、多津美にとっては、おいしいものと同じかそれ以上に、デザインでつまった時の励ましになっている存在だ。
これは「想像力を必要とする仕事の緩急」を表現したマンガ。
メイン登場人物は3人きり。でもイメージはどこまでも膨らんでいく。
なお「猫」がいるのはちょっとしたギミックのようなので、よく読んでみよう。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」