日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『十 ~忍法魔界転生~』
『十(ジュウ) ~忍法魔界転生~』 第10巻
山田風太郎(作) せがわまさき(画) 講談社 ¥619+税
(2017年2月6日発売)
時代は江戸、徳川家3代・家光の治世。
島原の乱で一揆軍に属していた森宗意軒(もり・そういけん)の秘術「魔界転生」によってこの世によみがえりしかつての剣豪たちが、魔の手先となって幕府転覆をもくろむも、正義の剣士・柳生十兵衛が柳生衆とともに彼らの姦計をうち砕く、現代のジャンルに即していうなら“伝奇アクション”。
発表はなんと今から50年以上前の1964年。『おぼろ忍法帖』の名で1967年に単行本化されたが、本作を一躍メジャータイトルに押し上げたのはなんといっても1981年6月6日公開の映画『魔界転生』だろう。 すでに『甲賀忍法帖』、『柳生忍法帖』で人気作家となっていた山田風太郎は現代大衆小説の大家というステータスを得る。
「月刊ヤングマガジン」で2012年から連載中の『十(ジュウ) ~忍法魔界転生~』は、ある意味この“事実”にまっこうから異をとなえた作品。
というのも本作は、映画版『魔界転生』を完全スルーして、原作に極力忠実に描かれているからだ。
最新第10巻ではまさにその“忠実さ”を象徴する展開が発生する。映画ではいわゆるラスボスとして登場した島原の乱の首領・天草四郎時貞の倒されるシーンがそれ。
映画しか観たことのない読者ならば相当驚くだろが、じつは原作版だと天草四郎は田宮坊太郎(田宮流抜刀術。ちなみに彼だけ架空の人物)、宝蔵院胤舜(宝蔵院流槍術の二代目)、柳生如雲斎利厳(尾張柳生新陰流)につぐ第四の魔界衆にすぎないのだ。
むろん、ゲームの難易度よろしくランクアップしていく魔界衆だけに、十兵衛サイドにも損害は大きい。これまた映画だと「サニー千葉無双」だったはずが、本作では柳生衆とのチームプレーに重きをおく展開になっており、彼らもまた個性的なキャラクターを見せており、群像劇の見ごたえも充分。
本作での十兵衛は、父の柳生但馬守宗矩までもが魔界衆になってしまったことを知り、忍法魔界転生の秘密をしたためた密書を懐に柳生の里に向かった関口弥太郎(彼もまたのちに柔術の関口新心流四代目を名乗る。少年ながら豪胆にして勇敢!)を追う。
映画はそのうえ映時間の制限からやむをえずストーリーをしたのだと思うが、あれはあれで非常に高い完成度である。ただ、マンガという自由な表現手段ではやはり原点に忠実であったほうが絶対におもしろいと思う。 つまりは、どちらもオススメってことだ! 最近は東映ビデオより発売の『東映ザ・定番』シリーズでも入手しやすくなっているので、映画とともに、本作もぜひ楽しんでいただきたい。
<文・富士見大>
編集・ライター。