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『このマンガがすごい!comics 土山しげる自選 ラーメン特別選!』 土山しげる 【日刊マンガガイド】

2017/03/10


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『このマンガがすごい!comics 土山しげる自選 ラーメン特別選!』


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『このマンガがすごい!comics 土山しげる自選 ラーメン特別選!』
土山しげる 宝島社 ¥590+税
(2017年3月10日発売)


かたひじ張らないメニューをモチーフに、極上の人間ドラマを描いてきた大衆グルメマンガの第一人者・土山しげる。「このマンガがすごい!comics」では、数ある土山作品のなかからラーメンにスポットを当てたエピソードを抽出。
出版社の垣根を超えて、土山御大みずからが太鼓判を押す7作品を収録した特別選がリリースされた。

ラーメンこそ土山グルメマンガの原点! 90年代前半までの土山は、任侠モノや時代劇などアウトローアクションを中心に描いてきた。『極道ステーキ』(原作・工藤かずや)というヒット作はあるが、これはステーキ(グルメ)マンガではなく、極道の成り上がり譚である。

土山が本格的に大衆グルメマンガを手がけたのは、1995年に「週刊漫画ゴラク」で連載を始めた『喧嘩ラーメン』から。
じつはこの時期、土山はあまりの量産体制にキャパシティオーバーとなり、体調を崩してしまう。結局入院することになり、マンガ家引退も考えるほど心身ともに弱り果ててしまうのだが、そんな時、最初にお見舞いに来てくれたのが「ゴラク」の編集長だったそうだ。

2人でマンガの話をしているうちに仕事への情熱が戻ってきた土山は、「ゴラク」での連載を決意。
「どんなテーマにしようかな……」と考えた時、ふと思い浮かんだのが喫煙所で患者同士が話していた内容だった。
「退院したらカレーが食べたい!」、「俺は断然、牛丼だな!」。
そこで出てくる料理は、だれもが知っている大衆食ばかり。これが、すべての始まりだった。

では数ある大衆食からなぜラーメンを選んだのか? それは当時、全国のラーメン屋に置いてある雑誌のなかで一番多いのが「ゴラク」といわれていたから(もちろん、正確なデータではない)。
かくして95年6月に『喧嘩ラーメン』がスタート。それまで培ってきたバイオレンスアクションとラーメン修行がミックスした破天荒な作品は、スマッシュヒットを飛ばす。
以降、「ゴラク」を中心に大衆グルメ路線を突き進んできたのは、ご存じのとおりだ。

この特別選には、もちろん『喧嘩ラーメン』も収録されている。そのほか、B級グルメ店復活人情劇『食キング』、究極のフードバトルアクション『喰いしん坊!』、塀のなかの食話勝負『極道めし』、ラーメン業界の裏社会を描いた『邪道』、無類の麺好きサラリーマンが主人公の『男麺(おとこメ~ン )』、久住昌之と初タッグを組んだ『漫画版 野武士のグルメ』など、人気作品から選りすぐったラーメンエピソードがズラリ。

出てくるラーメンには趣向を凝らしたものもあるが、基本的にはすべて庶民が喜ぶ財布に優しいラーメン。極上の素材を使った1000円以上もする高級なラーメンは出てこない。
国民食のラーメンが市井の人たちを無視したらダメになる。そんな静かに熱いメッセージがこめられているのだ。

また、作画にも注目してほしい。
じつは麺をすする描写というのは非常に難しいのだ。束になった麺をハシで持ち上げ、それを一気にすする。ともすれば汚らしく見えてしまうシーンだが、土山は口もとをしっかり描きこみ、若干の汁気を飛ばしながら、躍動する麺が少しずつ吸い込まれていく様をていねいに再現する。
ズッズッズ、ズゾゾゾゾ、チュルルルルという擬音もじつに楽しい。

愛情いっぱい、おもしろさ全部乗せの土山ラーメンを、スープまで残さずご堪能あれ!



<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。

単行本情報

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