『怒りのグルメ』
土山しげる コアマガジン \583+税
(2015年6月22日発売)
潤いのない都会のジャングルで、食べ歩きはつかの間の心のオアシス。ふらりと入ってみたお店の料理に喜んだりガッカリしたりする日常グルメマンガは、いつの時代も途切れることのないひとつのジャンルだ。
実写ドラマ版が人気の『孤独のグルメ』も、10数年前から深く静かに広がっていた人気に、深夜テレビでうまそうなものを喰う「飯テロ」の爆発力が重なったかたちだ。
そういう作品では、「ガッカリ」はあっても「怒り」はない。
お店選びがスリルがあるのは、当たり外れのバクチ性があるから。見た目で選んだ自分が悪い、運が悪かった……。
いや、そうじゃないだろ? 怒れよ!
細井守、45歳。入社以降総務一筋、昨日営業へ異動。社に入ってずっとカミさんの弁当だったけど、今日から外食。
小遣いを握りしめて、わくわくして入った「大江戸パワー丼」の店がいきなりハズレ。脂でベトベトの牛バラ肉、人工調味料がいっぱいのタレがドップリ……こんなもん金を取って食わせる飯じゃない!!
食のことで怒った細井守は噴飯男(フンパンマン)に変身。パンクロッカー風の噴飯男は「てめーで食ってみやがれ!」と巨大丼をパワー丼の社長に投げつけてお仕置き。
ただそれだけを、ひたすら繰り返すマンガだ。
でも、侮ってはいけない。『美味しんぼ』も最初は「噴飯マンガ」だった。
旬を過ぎてパサパサの鮎を出す料亭に食えたもんじゃないといい、「この豚バラ煮込みは出来そこないだ、食べられないよ」とサジを投げ、値段相応の料理を出さない店をぶった切る痛快さが人気の一部だったはず。
一流の料理人でもあった山岡士郎は、フォアグラに文句つけた責任を取って、船を出してアンキモを調達しにいったり代案を出す。
細井守はただのサラリーマンなので、出さない。深海魚のネタでごまかす回転寿司の社長を噴飯巻き!とグルグル巻きにするだけ。
オチがない? お客はお金を払う以上の何も求められない、どんなに怒ってもいいとリミッターを外してるのがすがすがしい。