日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『非日常的なネパール滞在記』
『非日常的なネパール滞在記』 第1巻
三部けい&りえ スクウェア・エニックス ¥800+税
(2017年2月1日発売)
『僕だけがいない街』の大ヒットで、広くその名が世に知られることとなった三部けい。同作では緻密に計算された作劇が白眉だったが、それとはまるで真逆のようなテイストを持つ『菜々子さん的な日常』(瓦敬助の名義で執筆)のような、ゆる~い空気の作品もまた、三部けいの得意とするところである。
そんなゆる~い作風の極致といえば、数々の単行本に「あとがき」として掲載されてきた『非日常的な日常』シリーズだろう。
そこで描かれていたのは、主に筆者のネパール旅行に端を発した、様々な思い出や愛着だったわけだが、それがいよいよひとつの連載作品として始動し、夫婦連名のかたちで発表したのがこの『非日常的なネパール滞在記』だ。
きっかけのひとつは、2015年に起きたネパールでの大地震。
初めて訪れた瞬間からネパールに魅了され、それから幾度となく足を運んだ地が、無残にも破壊されたことに大きなショックを受けたことが冒頭に描かれている。
……といっても、基本的には『非日常的な日常』の延長のような作風。何か強いメッセージを発するでもなく、きわめてパーソナルな視点でネパールの日常が綴られていく。
そして夫婦連名であることにも顕著だが、家族や子育てについての要素も非常に多い。
多くの読者にとっては、ネパールやカトマンズと聞いても、ヒマラヤ山脈や世界遺産、あるいは「最近『ドクター・ストレンジ』で見た」ていどの、漠然とした印象しかないかもしれない。
それゆえ、決して観光ガイド的なものではないこの作品がまず貴重ではあるのだが、正直、これを読んだからといって、即「ネパールに行こう!」となるようなものではない。
しかし、このいい意味で肩の力が抜けた空気こそが、ネパールの魅力を現しているのではないだろうか?
なので、読む側としても、思いっきり力を抜いて楽しみたい作品である。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。