割りばしとデジタルを駆使した脅威の作画術
――今日は長谷川先生がお使いになっている画材をお持ちいただいたので、それについてお聞きしていきたいのですが、なんといっても目を引くのが割りばしです。これ、どういう風にお使いになっているんですか?
長谷川 これはペンです。
――ペン、ですか?
長谷川 筆みたいに先端(細いほう)をカッターで削ってペンにして、インクをつけて描くんです。
――ほー、珍しい! きっかけは?
長谷川 小島剛夕さんが割りばしを使っているって聞いたから、それでマネしてみようと思ったの。
――実際に見たわけではなく?
長谷川 そう、割りばしのペンで影のタッチをつけていた、と聞いただけ。だから最初は、太いほうを薄くヘラ状にして、先を割って、それでサーッとやれば斜線が引けるんじゃないかな、と思って試したんです。でも全然できない。ベッ、と太い線になるだけ。それでいろいろ試したんだけど、先端を削って描いてみたら「あ、これはいい」と。
――完全にペンがわりに使っているんですね。
長谷川 本当は筆で描きたいんだけど、筆だとちょっとした強弱が敏感に出ちゃう。サインペンくらいの硬さで、なおかつ強弱がつけられるとなると、割りばしがいいですね。
担当 森秀樹先生[注11]も割りばしを使っていましたよ。
――おお! そしたら、小島剛夕先生の技術が、森先生に伝わっているかもしれない。
長谷川 うわー、森秀樹さんの仕事場、見学してみたいなぁ。
――ちなみに割りばしをペンにしていると、先端のほうがすぐにヘタってきちゃいそうですが。
長谷川 そうそう、だからカッターで削っては描き、削っては描く。ペン先を使うよりは経済的だしね(笑)。
――たしかに。メーカーからの供給がストップすることもありませんしね。どんな割りばしがいいんですか?
長谷川 どんな? うーん、短いのはダメだけど、特に……。だって、弁当屋でもらうヤツをそのまま使ってるし。唐揚げを食ったヤツを洗って、そのまま使ってる(笑)。
――割りばしって、四角いじゃないですか。持ってて指とか痛くなりませんか?
長谷川 全然ならない。ペンって力を入れてガリガリ描くでしょ? でも割りばしだと、触れるか触れないか程度でスーッと線を引く。だから腱鞘炎になる危険性もない。
――これはボールペンですか?
長谷川 そう、昔はボールペンは印刷すると薄くなるから使うな、って言われたんだけどね。今はペン入れした原稿をデジタルに取り込んで、そこでいろいろと処理するから、ボールペンも気にせず使える。
――ペンに巻いているのは……。
長谷川 これはゴムのガス管。これで手を保護するんだけど、これでもキツイですからね。だからみんな、割りばしを使ったほうがいいよ(笑)。
――それで生原稿を拝見させてもらっているんですが、小さい人物は、顔(表情)を描かずに丸だけなんですね。それで、コマの外側に顔だけ大きく描いてる。これ、スキャンしたあとにデジタルで合成するわけですか?
長谷川 うん。最近、老眼だからさ、細かい絵がたいへんなんだ(笑)。小さい絵をがんばって描いても、目とか表情が印刷で潰れちゃうじゃないですか。だったら別々に描いて、パソコンでつなぎあわせればいいや、と。
――へええ、デジタルの利点ですね!
長谷川 最初からすべてデジタルで描く人だったら、そんなことする必要もないんでしょうけどね。うちはアナログとデジタルの併用だから。
――では、先生が割りばしで人物にペン入れをして、それをアシスタントさんに回して背景を入れて、それからスキャンしてデジタルで処理する……という流れなんですね。
長谷川 そうそう、完成原稿はデータだから、スキャンしたあとの生原稿は捨てちゃってもいい。今日は持ってきたけど、コレ、捨てちゃっていいよ。
担当 とんでもない、ちゃんと保管して、なにかの折に使わせていただきます(笑)。
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- 注11 森秀樹 『子連れ狼』(原作:小池一夫、作画:小島剛夕)の続編『新・子連れ狼』『そして -子連れ狼 刺客の子』で作画を担当。作画を担当した中国戦国時代を舞台とする歴史マンガ『墨攻』(原作:酒見賢一、脚本:久保田千太郎)は、日中韓の合作で2006年に映画化された(主演はアンディ・ラウ)。