水風呂には鍛錬で慣れていくべし!
――それで……サウナの入り方なんですけど。
タナカ はい。
――サウナ→水風呂→休憩のループを3巡する、と作中でも描かれてます(session3「導師蒸しZ」)。
タナカ それが一般的ですね。
――“サウナ弱者”は水風呂に入れないんです。
タナカ 最初はみなさん入れないと思いますよ。相当時間がかかりますね。
――慣れ、ですか?
タナカ 慣れ、ですね。
――慣れなのか~。
タナカ 日本人は41℃のお風呂には入れますよね。でもこれ、湯船に浸かる習慣のない外国人からしたら、低温火傷のレベルですよ。日本人はちびっこのころから熱湯に肩まで浸かって数を数える修練を積んでいるから平気なんです。
――そ、そういうもんですか。
タナカ だからフィンランド人は0℃の氷のはった湖に入りますけど、彼らは普通におしゃべりしながら入りますよ。
――0℃って……。
タナカ まぁ、外気はマイナス20℃くらいなので、むしろ水のなかは暖かい。
――……暖かくはないですよね?
タナカ あ、暖かくはないですね(笑)。めちゃくちゃ寒いし、冷たいし、危険です。慣れていない僕らはギャーギャーいいながら入りましたけど、でも現地の人は普通の顔をして入っている。だから慣れもあるんですけど、一度味を覚えてしまえば、脳内に「気持ちいい!」という回路ができてしまえば、もう遠足の前の日にワクワクするのと同じです。「水風呂!」と聞くだけで、ととのっちゃう。
――いきなり水風呂に入るのではなく、まずは普段の風呂上がりにシャワーで体に水をかけてみるとか、徐々に慣らしたほうがいいのでしょうか?
タナカ そうかもしれません。
――サウナ室にはどれくらいの時間入っているんですか?
タナカ 施設によって温度や湿度が違うので、それは施設によってまちまちです。でもあんまり長い時間、我慢し続けるわけじゃないですよ。あれもね、快感という回路が出来上がっているから、単に気持ちいいんです。気持ちいいから出たくないんですよ。それに「次に気持ちいいの(水風呂&サウナトランス)が待ってるよ!」と焦らしているわけで、我慢しているワケじゃなくて、自主的に明るくやっているんですよね。しんどくなるまで入っていたら、せっかくリラックスしにきているのに、むしろストレスになっちゃうでしょ。
――それは本末転倒ですね。あとやっぱり本番は「出たあと」なんですね?
タナカ お風呂だって、湯上がりにリビングのソファでくつろいでいても、ととのわないですよ。やっぱり夜風に当たって「冷ます」ことで、ととのいます。それこそ銭湯の帰り道で、ととのうんです。銭湯は帰り道に本番があります。
――銭湯は帰り道に本番がある!
タナカ そらぁね、「神田川」とか、そういう詩的な気持ちにもなりますよ。石鹸がカタカタ鳴ったのが気になるとか、あれはもう相当なトランス状態。
――えっ! 南こうせつさんは、ととのっていたんですかッ!?
タナカ きっとそうですよ。ととのっているから、彼女の髪が冷たいとかが気になるんですよ。あれが曲になるってことは、つまりそういうことですよ。
――そ、そういうことですか。
サウナから出たあとは何もするべからず!
――年間に300日もサウナに行ってたら、いつお仕事をされているんですか?
タナカ サウナ施設に仕事を持ちこんで、ワーキングスペースみたいに使わせてもらってます。
――え、サウナで?
タナカ いまサウナ施設の休憩室って、パーテーションで区切ってあってパーソナルスペースがあったり、リクライニングシートがあったり、宿泊できたり、電源が確保できたり、Wi-Fiがフリーだったりするんですよ。だから喫茶店で仕事をするよりも、はるかに便利なんです。
――なるほど! コーヒー屋でノートパソコンをカタカタするよりは良さそうですね!
タナカ ごはんも食べられますし、打ち合わせをするようなスペースもあります。作業に疲れてきたら、サウナでリフレッシュして、もうひとがんばりできます。パフォーマンスを下げないで仕事をする、というのはこれからの時代に合っていると思いますよ。
――なんか……サウナ施設に住んでいるような感じですね。
タナカ あ、でも泊まることもありますし、実際それに近いですよ。ノートパソコン1台あれば仕事できる在宅ワーカーの方も増えましたし、出張時にホテルではなくサウナ施設に泊まる人も増えています。施設側もそういったニーズを受け取っていますし、人々のライフスタイルと合ってきた、と思います。
――そう聞くと、楽しそうですね。
タナカ じつは『マンガ サ道』もサウナ施設で描いたんですよ。
――そうだったんですか!
タナカ サウナでサウナのマンガを描いていると、もう地続きで、混ざりあって、なにがなにやらわからない。
――サウナ施設にペンとかマンガ道具を持っていくんですか?
タナカ いや、A4くらいの紙に鉛筆で描いてます。
――鉛筆描き? それは下絵ですか?
タナカ いや、それをスキャニングしてそのまま使うので、本原稿です。
――鉛筆描きが本原稿なんですか。
タナカ いま僕はほとんどペンは使わないです。
――この『サ道』ってタイトルは、どうやって決めたのでしょうか?
タナカ タイトルを決めた当時は、サウナは修練に近いと思っていましたし、入り方もあればマナーもある。向き合い方とか態度とかも必要であって、「これは道だな」と。サウナの道、サ道……ってなったんですが、のちのちサウナは茶道とも関わりがあることが分かりまして。千利休は初代のサウナーなんですよ。
――そうなんですか?
タナカ 茶室がああいう木の箱のような空間で、にじり口から入っていくというのは、当時の蒸し風呂と共通してますよ。で、本場のサウナっていうのも植物を使うんです。
――ヴィヒタ(session2「サウナ室テレビ問題」)、でしたっけ?
タナカ 日本ではまだあんまり浸透していないんですが、基本やっぱり植物の効果って絶大なんですよ。日本でも優良店は植物(ヴィヒタ)、または精油を使うようになってきましたし、植物を蒸すというのはサウナとセットなんです。それを飲んじゃったのが茶道。
――……まあ、近代まで日本の風呂って蒸し風呂でしたよね。
タナカ 浴槽に肩まで浸かるようになったのは明治からなので、ほとんどの時代は蒸し風呂です。だから日本はサウナ文化だったんですよ。
――いまのかたちのサウナっていつからなんでしょう?
タナカ 東京オリンピック(1960年)のときに輸入されてきたそうです。そのときが、日本にいちばんサウナ施設が多かった時期みたいですね。
――へええ、一大ブームだったんですね!
タナカ それからはやりすたりがあって、80年代に健康ランドのブームがあって、何度も波があるんです。
――それで『サ道』は、もともとはエッセイだったんですよね?
タナカ そうです。
――マンガになった経緯をお聞かせいただければ。
タナカ 最初は文章だけのつもりでした。サウナ施設で文章を書くというのは相性がよいので、ずっと文章での連載をやっていたんですけど、やっぱり絵を描きたくなってくるというか……。絵で表現したほうが早いんですよね、「ととのった!」とかは。それで後半は段々とマンガになっていったんです。やっぱりマンガは伝わりやすいな、と(笑)。
担当 当時の「週刊モーニング」の編集長が、すごいサウナ好きだったんです。だから絶対に『サ道』をマンガにしたい、と。
――では最初から連載にするつもりだったんでしょうか?
担当 最初は読み切りを本誌に掲載しました。そのときの反響がすごかったんです。異常なくらい、おはがきがきました。「こんなに来るんだ」って驚きました。それを見たら、「世のなかにはこんなに『サ道』を待っている人がいるんだから、すぐに連載にしなきゃ」と思い、それでタナカ先生に連載のお願いをしたんです。
――タナカ先生がマンガを連載されるのはひさしぶりですよね?
タナカ 週刊誌での連載なんて、それこそ30年ぶり? もうね、やり方忘れましたよ(笑)。
――「このマンガがすごい!2017」本誌で10位ですから、この作品を待っていた人は多かったと思います。
担当 どういった方が投票してくれたんでしょうか?
――著名人ですとヒャダインさんが入れてくれています。
タナカ ヒャダインさんは「日本サウナ祭り」にも来られてましたね。相当マニアックなサウナ施設に行かれてますよ。猛者しかいないような玄人好みの施設に。
――あとは……、ライターや編集者が投票してますね。
タナカ 在宅ワーカー。
――みんな疲れてるんですかね?(笑)
担当 そういう方たちにとっては、本当に「待ってました!」ってマンガだと思うんですよ。
――ニーズはあったワケなんですね。
担当 日本サウナ・スパ協会の公式大使が描く、というのが新しいですよね。
タナカ それまで公式サウナ大使自体、長嶋茂雄さんくらいしかいませんから。
担当 公式サウナマンガですよ。
タナカ そもそも公式サウナマンガってなんだよ、って話ですけどね(笑)。
取材・構成:加山竜司
■次回予告
次回のインタビューでは、実写映画がまもなく公開されるタナカ先生のデビュー作『逆光の頃』について、さらにみなさんが気になってしょうがない(?)『サ道』の続きについてお話をお聞きしています!
インタビュー第2弾は映画公開日と同じ7月8日(土)公開予定! お楽しみに!
タナカカツキ先生の『マンガ サ道~マンガで読むサウナ道~』も紹介している
『このマンガがすごい!2017』は絶賛発売中!
“今、読みたいBEST100”を大ボリュームで特集してます♪
『このマンガがすごい!2017』をゲットしたい方はコチラ!