お客さんの見た目以外は完全にノンフィクション!!
――最初にガイコツありきで、売場のキャラたちもまがまがしいもので統一しようと?
本田 うちの売場の人たちは基本的に「かぶりもの」と決めています。
――あ、すみません! 必ずしもまがまがしいってわけじゃなかったですね。でも、紙袋とか兎仮面もどうもホラーっぽく見えるんですけど(笑)。
本田 はい(笑)。それで、同じビル内にはいるけど遠い部署の偉い人たちや、取引先の方々は顔に紙を貼りつけるルールにしています。
――これ、売場の方々から「こう描いてほしい」というリクエストはあったんですか?
本田 要望はなかったです。同僚の人たちは私が趣味でマンガを描いてることは前から知ってましたので、連載が始まる時にあらためて「こういうマンガを描いていて、あなたも登場します。発言もそのまま書きますけどいいですか?」と話してお許しはいただいていたんですが。で、あとから見せたら「こういうのじゃないと思ってた」と。みんな、実物をデフォルメしたキャラになると思ってたみたいですね。 ――まあ、普通はそう思いますよね。 本田 売場でいちばん仲がいいのは紙袋の人なんですが。その方が「同僚たち全員、しぐさでわかる」って言ってくれたのはうれしかったです。 ――それはすごい! かぶり物とはいえ髪型も見えてますし、体型も違うのがわかるし……。ホントに手を抜かないですね。単行本が出てからの同僚さんたちの反応は? 本田 喜んでくれましたね。本当にいい方ばっかりなんで。基本的にここに出てくる登場人物たちはこのとおりの性格なんです。みんなやさしくて明るくてサバサバしてて。本田はネガティブですが……それもほとんど実物のとおりりです。 ――ガイコツ書店員さんは困ってる姿が笑えてかわいいんですよ。応援したくなるタイプ。 本田 ある人に「この作品のいいところは、主人公が困ってる時にだれも助けてくれないところだ」と。こっちから助けを求めるときちんと胸襟を開いて話して、助けてくれるんですが。 ――全員めちゃくちゃ忙しそうですし。ノンフィクション度はかなり高そうですね。 本田 変えてるのはお客さんの見た目だけです。それ以外は発言も出来事も完全にノンフィクションで。私は想像力があまりないので……体験したことだけを書いてます。 ――同僚さんたちのチームワークのよさも伝わってきます。いつも大騒ぎな楽屋裏とか……過酷なんだけどおしゃべりが楽しそう。 本田 物量がやばい日は、しゃべってないと自我を失っていくんですよ(笑)。みんなテンポよくしゃべりながら同時に手を休めず動かして……。同僚たちはみんなおもしろくて、私はほぼ聞いてる役です。 ――ほとんど戦場ですよね。 本田 本当に気が滅入るくらい毎日本が出てるんですよ。BLとかめちゃくちゃ刊行点数が多くて。BLといえば、今でこそソフトな路線の作品も増えましたが、ハードなものが主流だった頃は「これはやばいよね!」とオビの過激なアオリコピーを音読しながら作業する人がいたり……(笑)。 ――本田先生はずっとコミック売場の担当ですか? 本田 はい。大学生の時にバイトで入って、途中で契約社員に変わりましたが10年間、コミック担当をやってきました。 ――ご自分の希望で? 本田 バイトの面接の時に「コミック読む?」と聞かれて「読みます」と……。「文芸書は?」「芸術書は?」と聞かれて、全部同じように答えたんですがフタを開けたらなぜかコミック担当になってました。 ――神のお導きですね。 本田 その後、契約社員になってコミックの経験があると言ったら「もうコミックしかないね」と。 ――毎日膨大な新刊が届く大型書店では、知識がモノを言いますよね。大型書店ならではだと思いますが、海外からのお客様ネタがめちゃくちゃおもしろいです! 本田 翻訳されてる日本のマンガをお求めの方もいますが、「現地で本物の日本語版を買いたい」みたいな目的でいらっしゃる方も多いんです。 ――マンガを探すアツいお客様に、本田さんががんばって英語で応戦する姿に大爆笑です! 「スペシャルヤオイブック」とか「ディス マッスル イズ ウケ」とか言ってみたくなります(笑)。 本田 英語はできたほうがいいですよね……。 ――同業の方から、こんなエピソードを描いてほしいというリクエストはありますか? 本田 2巻で同業者飲み会の話を描きましたが、書店業界や書店のダークサイドのことをもっと描かないのかとは言われましたね。まあ働いてたら当然お客さんとのトラブルもありますけど。 ――でも、それも捉え方次第ですよね。困ったお客さんをおもしろく描ければ「おもしろいお客さん」になるわけで。 本田 お客さんにしても本田の対応を見て「もっとちゃんと英語で説明できるようにしろよ」と思う人がいると思います。私も困った書店員で、許してくれるお客さんに甘えてるのかもしれないんです。困った客と困った店員を受け入れてくれる読者の優しさによって、「おもしろい客」「おもしろい店員」として捉えてもらってると思います。 ――困ったお客のエピソードをもっと読みたいと思いつつ……我が身を振り返っちゃいますね。書店で在庫を調べてもらっているのに「本当に本当にないんですか?」と食い下がっちゃったりすることがありますし。 本田 そういえば、毎週金曜日に必ず『NARUTO』を3冊ずつ買っていく外国人の方がいたんですが、あるとき2冊しか持っていなかったので「この次の巻探しましょうか」と声をかけたことがあります。その方とはそこから友だちになったんですよね。こちらからお客さんに声をかけることはあまりないのですが。
日本人の方だったら声かけないかな。 ――書店員さんって意外にお客さんを覚えてるんですね。 本田 頻繁にきてくださる方は自然と覚えます。あと、店員にやさしく接してくれる人とか。めっちゃ恐いことをされた場合も、表面には出さずに「8代先まで呪う」と思って覚えますけど(笑)。 取材・構成:粟生こずえ
次回のインタビューでは、今度こそ本田先生の正体に迫りたいと思います!?
困ったことをいかに笑える話に描けるかが勝負
■次回予告
インタビュー第2弾は、『ガイコツ書店員 本田さん』最新第3巻発売日の9月27日(水)公開予定です! お楽しみに!