人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、茜田千先生!
「桂ちゃんが いれば それでいいの」
桜舞う春。ある地方都市に1組の若い夫婦が引っ越してくる。絵本の出版社に勤務している夫、保育園で保育士として働く妻。「新婚」だという仲むつまじい2人は、じつは兄妹だった――。
昨年、『このマンガがすごい!2017』オンナ編にランクインした『さらば、佳き日』。やわらかであたたかい雰囲気ながら、秘密を抱えた夫婦、もとい兄妹の過去や2人の想いがつづられる繊細に描写され、マンガファンのあいだで話題となった本作ですが、今回、12月の最新第4巻の発売を記念して、著者の茜田千先生にインタビューをさせていただきました!
晃と桂一は「つがい」のような存在であってほしい
――少女マンガでは兄と妹の恋というテーマは昔から見受けられますが、本作からは「禁断の愛」のようなセンセーショナルな印象を受けないのが新鮮です。この兄妹の関係を描くにあたり、表現したかった軸はどこにあるのでしょうか。
茜田 2人がつがいのような存在であってほしいという気持ちから。兄と妹というのはあまり意識してなかったです。
――では、この作品はどのような着想からスタートしましたか?
茜田 SNSか何かで「兄妹で暮らしているが夫婦と思われている」という話を目にして「ああそういうこともあるか」と思ったのがきっかけです。
――2人の新生活から始まり、そこに至るまでの過去のエピソードが明かされていく構成にした意図は?
茜田 本当は読み切りのつもりで考えていた話だったので、最初は1話目しか考えていなかったんです。連載にしたいといわれて、「じゃあこういう話にしよう」とだいたいの流れを決めていって、自然とこういう流れになりました。
――しっかり者の妹が兄の面倒をみるという構図は現実にもありそうです。そのなかで晃が「母性」ではなく、恋愛感情を感じるようになったのはなぜでしょう。
茜田 う~ん、それは晃にもわからないと思います。描くうえでは、どうやったらキャラクターの感情が伝わるかを考える時が一番悩ましいですが……。晃は感情表現が激しい子ではないので、一番気をつかいます。どのキャラにもまんべんなく思い入れはありますが、晃には自然と思い入れが強くなっているかも。
――晃はけっこう早くから恋愛感情に気づいていたみたいですよね。第2話で晃が「好きだよ」と口にしたのに、桂一も「好きだ」といいますが、これも「恋愛感情」を自覚しての言葉でしょうか。
茜田 まだこの時点ではぼやけていると思いますが、徐々にはっきりしていったんだと思います。そもそもあまり妹として意識してなかった節があります。
――晃の桂一への感情は、家庭を顧みない母親への反発なども関わっていますか?
茜田 反発とは違いますが、ああいう母親だったからこそ2人が絆を深められたなのではないかと思います。
ひたすらに愛する人だけを見つめて生きていけたら……。
――晃は高校まで、ひたすら家事に打ちこんで暮らしています。野球への想いを語る同級生の柳沢を見て「あんな風になりたかった」とつぶやいたのには、違う生き方への憧れがあったのでしょうか。
茜田 晃はしっかり者に思われていますが、本人は自分のなかの優柔不断さや弱さを嫌っているところがあります。主に桂一への気持ちの部分ですが。柳沢へのセリフはそんな自分が何もかも捨てても好きなもの――桂一だけを見て生きていけたらいいのにという気持ちからです。
――あ、そうだったんですね。晃は高校卒業を機に家を出て、一度は完全に桂一から離れようとしますよね。なのに、桂一についていくと決めたのはなぜだったのかが気になります!
茜田 晃と桂一が、2人を知る人のいない土地に引っ越して暮らしていくに至った経緯はそのうちわかってきますので……。
――「兄と妹の2人暮らし」ではダメだったということですよね。桂一は晃が絡むと行動力を見せますが、それ以外は常に受け身で……。こうしたキャラクターは描くのが難しくないですか?
茜田 難しいと感じたことはないです。むしろヘタレで流されやすくて基本的にダメな人間でも、ひとつくらい取り柄があって。それが晃に対する想いだった……という子なのでわかりやすいですね。
――晃の身を心配して合宿先から飛んで帰るシーンからは、桂一の本気の焦りがひしひしと伝わってきました。
茜田 「つがいのような存在」なので、片方が欠けることへの不安があるんですよね。
――そういえば晃と桂一の父親はまだ顔が出ていませんが、登場する予定はありますか?
茜田 いちおう考えてはいます。どんな形になるかは未定ですが。父親はよくも悪くもありのままを尊重する人です。