現実に高齢者の直面している問題を盛りこみ、まり子に乗り越えていってもらいたい
――本作は元気なおばあちゃんの痛快な冒険物語ですが、「老いの障壁」のリアルさにハッとさせられます。山あり谷ありで、それもスピードが速い。
おざわ ジェットコースター的、といわれますね(笑)。
――なんだかんだうまくいくのだろうと思っていたのですが、部屋は借りられないし、同棲したと思ったら八百坂さんの高速道路逆走事件で……予想を裏切られてばかりです(笑)。
おざわ これは当初から描きたかった要素です。現実でもこうした事件が頻発して、ニュースを賑わせていて「高齢者は免許証を返上しろ」といった声が多く上がっています。生活するうえで自家用車が使えないと不自由などの事情を抱えているとしても、事故が増えているのは事実です。SNSを見ていても、高齢者の逆走や危ない運転を見かけたという発言があり、事故にならないレベルでも増えているのではないかと。ですので、高齢者の問題のひとつとしてだしてみようと思いました。劇的にひどいことにならない、ギリギリのエピソードとしておさめてはいますが。
――甘いロマンスの真っ最中に、あんな超現実的な水の差し方とは、参りました! 80歳でも素敵な恋はできるとウットリ、同棲して住まいの問題も一発解消したところで……。
おざわ 現実に引き戻されるというか。もちろんこのまま仲よくしていくのもアリだったんですけど。八百坂さんについて認知症であるとは名言していませんが、それっぽい傾向があることは描いています。そこに高齢者の障害が浮き彫りになるという構図です。
――八百坂さんの家族の反応がまたすごくて、いかに2人が独身同士でも、高齢者の恋愛は一筋縄ではいかないんだなと。
おざわ 以前、高齢者の婚活を取りあげた番組を見たのですが、実際に結婚までいくのは難しいそうです。当人同士は結婚したい気持ちがあっても、娘や息子の反対で成就しないことがあると。悲しいことですが。
――遺産狙いではないかと疑ったり、あるいは、その歳で恋愛するのは気持ち悪いという感情もあるのでしょうか。
おざわ 彩花(まり子の孫の妻)に「自分の母親が誰かに甘い感情を持ってるってかなり衝撃」といわせているんですけど。これが嫌悪感の象徴なのかなと描きながら思っていたんですが。
――彩花は、まり子の恋愛に対して肯定的ですが、それも距離感があるからなのかも?
おざわ 自分個人としては肯定できるけれど、冷静に「息子さんの感情」を代弁しています。それに、まり子さんが「だよね」と思わされるところを描こうと思ったんですよ。
――よいか悪いかではなく、これがひとつの現実ということですね。
おざわ マンガでは死んだ夫に延々操を立てる美談がでてきがちですが、まり子さん別に思いだしたりしないんですよね(笑)。現実には、まり子さんのように忘却してる人もいるんじゃないかと……これもまた現実。どちらでもいいと思ってますが。でも、気づいたら、まり子さんの夫のこと、ここまでほとんど描かないできちゃったなあと(笑)。
取材・構成:粟生こずえ
■次回予告
次回のインタビューでは、おざわさんがどのようにまり子の感情を描いているかなど、その制作秘話に迫ります!
インタビュー第2弾は7月13日(金)公開予定です! お楽しみに!