人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回は『アイとアイザワ』単行本発売を記念し、原作者のかっぴー先生と
マンガ担当・うめ先生の対談インタビューが実現!
漫画のセレクトショップをコンセプトとした、マンガアプリ「マンガトリガー」。その「マンガトリガー」で配信されている話題の“女子高生×AI”SFマンガ『アイとアイザワ』がついにコミックスとして発売される!
『このマンガがすごい! comics アイとアイザワ』第1巻
かっぴー(作) うめ(画) 宝島社 ¥640円+税
(2018年9月14日発売)
今回、コミックス発売を記念して、原作者のかっぴー先生、マンガを手がける「うめ」の小沢高広先生、そして「マンガトリガー」を運営するナンバーナイン代表・小林琢磨氏を交えた対談インタビューが実現しました!
『アイとアイザワ』の製作秘話、キャラクターデザイン、作画などで苦労したお話などなど、先生方からたっぷりお話をうかがいました。
互いにシンパシーを感じていた作者同士の、運命のコラボが実現!
――小林さんはかっぴー先生の小説版『アイとアイザワ』を読んで、かなり早くにマンガ化を構想したそうですね。
かっぴー おもしろいっていってくれてるのはうれしいけど、こんなに早くマンガ化を決めちゃっていいのと思いましたよ(笑)。最初にお話をいただいた時は小説は6話、マンガ版の第2話くらいまでしか書いていなかったので。
小林 僕はかっぴー先生の大ファンで。連載1話から読んでいた『左ききのエレン』が休載した時、とりあえずじっと待っていたのですが……そうしたらWEBで『アイとアイザワ』(小説)の連載が始まった。最初は正直「早く『左ききのエレン』を描いてほしいのに」と思いましたが、これがめっちゃおもしろくて。それで、ぜひマンガ化したいと思ったんです。
かっぴー この小説(原作)は息抜きというか趣味のつもりで書き始めたんです。そもそも僕はマンガも趣味で始めたんですが……。仕事になったらマンガを描くのがどんどんつらくなって。気持ち的に落ちこんでいた時に、なんの責任も伴わないカジュアルな趣味が欲しいと思って。
小沢 自分が好きなお店でバイトすると、もう行きたくなくなる現象ですよね(笑)。
――しかし、息抜きにもまた創作を選んでしまうんですね。
かっぴー その時は文章が一番ラクな行為だったんです。なんか自分の考えが人に伝わってないんじゃないかというのが悩みだったんで。
――『左ききのエレン』を描きながら、そんな悩みを抱えていたんですか?
かっぴー そうですね。その悩みをデフォルメしてエンターテインメントにするために、なかなか同級生と話が合わないアイの不安をリンクさせて。ここは、『アイとアイザワ』の裏テーマみたいなものかもしれないですけど。
――小林さんと、かっぴー先生はそれまでに面識があったんですか?
小林 一度だけお会いしたことがありましたがそんなに深い関係ではなく。あくまで一方的なファンです。
かっぴー ある日小林さんがトークイベントに来てくれて、終わったあとに、「あの小説をマンガにしませんか」と。
――マンガ化を打診した時、かっぴー先生のほうから条件が提示されたそうですね。
小林 ひとつは科学的な考証をしてくれる監修者をつけてほしいというお願い。2つめは「最高の作画を用意してくれたら」と。それで、その日のうちに小沢さんに連絡したんです。「ちょっとお話があるんでお会いしたい」と……。
小沢 小林さんは、だいたいうさんくさいんで、何かもったいつけてるなぁと思って……。会うまでこんなにいい話だとは思ってもいませんでした(笑)。
小林 会ってその場で『アイとアイザワ』の小説を読んでもらったんです。「ともかく何も聞かずにこれを読んでください」と。
小沢 マンガ版でいうと6話目くらいまででしたね。
――その場で原作を読んで、小沢先生としても即決するくらいの気持ちに?
小沢 はい、ぜひともやりたいと思いました。もちろん、一度持ち帰って作画を担当する妹尾に確認しないといけないので……。でも、たぶん妹尾もやりたいというだろうとは思っていました。
――小林さんが、マンガ化を構想した時点でうめ先生を考えたのはどんな意図からだったのでしょうか。
小林 『東京トイボックス』などでクリエイターさんの群像劇やビジネスマンガを描かれていて、かっぴー先生の作風との相性はすごくいいんじゃないかと。何人か候補が思い浮かんだんですが、一番しっくりくるのがうめ先生だなと思いました。もし断られたらどうしようかと……。
――かっぴー先生は「最高の作画を」という条件を出した時、イメージがあったんですか?
かっぴー 『アイとアイザワ』に関してはマンガ化するつもりがなかったので具体的に考えたことがなかったです。
小林 かっぴーさんは断るくらいの気持ちで「いい作画がつけば」といったんじゃないですか?
かっぴー そうですね。そういえばたいてい断れると(笑)。でも、じつはこれまで『左ききのエレン』や他の作品をマンガ化する時に、編集さんとの話のなかでうめさんの名前が出たことはあったんです。僕の原作とすごく相性がいいと思うと。
小沢 妹尾が「かっぴーさんのマンガを読んで、うちの作品がどう読まれたかやっとわかった」っていっていて。『大東京トイボックス』には「仕事をしたくなった」とか「やる気になった」という感想が多く寄せられていたんですが、自分たちはそれにあまりピンと来ていなかったんです。もちろんそういってもらえるのはありがたいけど、ちょっと意外に感じていて。それが、かっぴーさんの『左ききのエレン』を読んだ時に、「これか、こういう気持ちか」とわかったんです。
かっぴー 読後感が似てるんですかね。
小沢 妹尾と「うちと芸風が近いね」という話はしてたんです。で、うちとしては『アントレース』の作画募集の企画があった際、手を挙げようかぎりぎりまで検討していて……。
小林 そこでうめ先生に決まってしまっていたら、『アイとアイザワ』は生まれてなかったことになるので、よかった~(笑)。マンガトリガーとしては初めてのオリジナル作品なのですが、このタッグが実現するなら経費も惜しまずに全力投球できると思いました。
描きたかった軸はコミュニケーションの喜び、それから「神」との関係性は成立するか否か!?
――小沢先生が、最初に『アイとアイザワ』を読んだ時に感じた印象は?
小沢 AIなどのネタや設定も魅力的でしたけど、ハッとしたのは非常に早い時点でアイがアイザワに惚れちゃうところです。あそこで「ここでハンドル切るの? 俺は切れない!」って思ったんですよね。あのやり方は、うちでハンドルを切る角度とは違っておもしろい。それで気持ちがグッと動いたんです。
かっぴー よかった! 『アイとアイザワ』は、そこありきの話なんでね。かなり早い段階でその関係性を見せて、「そういう話なんです」とわかってほしかった。ジャンルをなんと表現するか、最初悩みましたもんね。AIの話ではあるんだけど、SFやテクノロジーに特別な興味がある人に向けて書いたわけではないので。もともとコミュニケーションの悩みを小説で中和しようと思って始めたわけで、じつは「人工知能もの」が軸ではないんです。
――コミュニケーションを書きたいから、まずアイという「共感しあえる友だちがいない」キャラクターが必要だった?
かっぴー 同じレベルの趣味を持ってる人がいない悲しさ、見つけた時のうれしさを抜きだしてテーマにしているので。主人公として、孤独が極端に激しいキャラにする必要があり、となるとただの小説オタクじゃ弱いなと思って、「瞬間記憶能力(カメラアイ)」の持ち主という設定にしたんです。テーマを強調する為のデフォルメですが、それがまったくのフィクションだとひっかかっちゃうから、実在する「瞬間記憶能力(カメラアイ)」という能力を基にして。
――そんな孤独な少女であるアイが、初めて出会った「同じレベル」の相手がAIであると。そういう角度からAIが必要だったんですね。
かっぴー アニメのキャラクターがモニターから出てくるのでもよかったんですけど、人間じゃない完璧な存在に恋をするっていうところですかね。「2次元に恋する」というのは、一般的に嘲笑の的みたいになってしまいがちだけど、それがどういう現象なのかよく考えてみると、つまり「3次元に応えてくれる人がいない状況」なんですよ。「現実でモテないから2次元に逃避してる」とイコールじゃないと思う。人間は応えてくれないけど神は応えてくれる、って考えた時に。神はマンガやアニメのキャラクターだったり、人工知能もありうるなと。だけど、それが一方通行ではなく関係性は成立するのかと、そういうところに興味があって。
――AIが登場するやいなや、それが恋愛対象になるのは意外性がありましたね。
かっぴー だからこそ監修がほしかったんですね。人工知能について、一般の人よりは知っていると思ってはいましたけど、想像で書いてるのが大部分だから当然穴があるはずなので。そこの補強はマンガとして絶対必要だと。
小林 マンガ化をスタートさせる前に、科学考証でご協力いただいている筑波大学の大澤博隆先生にこういうことは実現可能かと質問したりご意見をうかがったりして。その時にまた作品に取り入れられるアイデアが生まれたりしました。
小沢 あれはすごくぜいたくでいい時間でしたね。
かっぴー どんな些細なことでも、専門家がその場で答えてくれるなんてそんな快感はないですよ。大澤先生はその時、海外にいらしたんですが、スカイプで参加してくれて。
小林 学生のみなさんとヘルシンキ(フィンランド)にいたんですよね。
小沢 しかも「生徒たちが寝てるから」って、先生はホテルのバスルームにこもって。
小林 大澤先生は、人と付きあう人工知能の研究を専門にされています。そのなかには人狼知能という研究もあります。 「人狼」は簡単にいうと嘘をつくゲームですが、「人工知能が嘘をつくことはできるか」という実証実験をやっている方です。
かっぴー そんな権威をバスルームに閉じこめてつきあってもらったって、たいへんなことですよ。
小林 先生は小説を読んですごく気に入ってくださって。『STEVES(スティーブズ)』のファンで、うめ先生のこともご存じだったんです。
――その時のお話で印象的だったのは?
かっぴー 全部なんですけど、人工知能同士の会話についての話は白熱しましたね。人間がいない場での人工知能同士の会話をビジュアル化するにはどうしたらいいのかという話をしていて。「生き物が存在しない森のなかで木が倒れたらそこに音は生まれるのか」みたいな話です。それを感知する存在がいないところでの人工知能同士の会話って、インターフェイスがいらないと思うんですよ。人間が見ないのならばモニターは必要ない。じゃあ、それをどうやったら絵にできるかと……我ながら何の話してるんだみたいなことを大まじめにみんなで考えて。
小沢 話はすごく高尚なんですが、課題は「マンガにするにはどうすればいいか」なのが笑っちゃいますよね。
かっぴー 大澤先生は、僕が小説に書いたことが「もし、あるとしたら」という前提で妥当性があるかを考えてくださって。
小林 『アイとアイザワ』の世界は30年後なら可能性としてはゼロではないとおっしゃってましたね。その場で人工知能のこれまでの進化の歴史も語りながら。そういう話の途中に出てきた小ネタもマンガのなかに活かされています。
かっぴー まあそこは読んでのお楽しみということで……。大澤先生の言葉でうれしかったのは、「専門家にはつくれない話だ」ということです。専門家がつくろうとするともっと地に足のついた物語になってしまうと。「もしこうだったら」とぶっ飛ばしたベンチマークを起点にしたこの物語をちゃんと読んでくれて、「そこに飛ぶんだったらこうだよね」と間を埋めてくださったのが大澤先生。楽しんでくださってよかったなと思います。
小沢 物語の強度が、さらにあがりましたよね。
かっぴー 僕がひとりで書いてたら、入口は人工知能でも感情の話に終始してしまったんじゃないかと思っています。AIの設定も活かして最後まで完走できたのは先生のおかげです。
現実にない概念をマンガに描く……難題が山盛りの原作!?
――作画の面ではどんな苦労がありましたか?
小沢 まず、アイの造形で苦労しましたね。妹尾いわく「最近おっさんのマンガばっかり描いていたので女子高生を描くこと自体はたいへんうれしい」と(笑)。だけど、「美人に分類される造形だけどイケてない」女子高生って表現が難しいんですよね。マンガの文法だとすごい美人やすごくかわいい子はいくらでも描けるんだけど、この微妙なラインはなかなか難しい。アイは当初、相当パターンを描きました。
小林 アイのキャラ案、5~6案くらいありましたよね。三つ編みとかツインテールとかもあって。
かっぴー 候補を見せてもらって、みんなで「どれがアイかな」と話した時、うれしかったですね。僕のなかでもアイはまだいなかったから、アイの可能性を初めて可視化してもらったことが。
小沢 アイザワの描き方も、僕と妹尾だけじゃなくてスタッフも含めてかなり話しあったところです。アイが恋に落ちる瞬間と、アイザワの目鼻口がうっすら見えるところっていうのをシンクロさせて、そこにどう説得力を持たせるか。
――現代にはないものや概念を絵にする苦労もかなりあるのでは?
かっぴー 打ちあわせで毎回話しますよね。このシーンは背景どんななんだろうとか。
小沢 フラッシュトークをどう表現するかはかなり悩みましたね。正直これはギリギリまで保留にしてあって……。作画の最後の段階まで真っ白でした。アシスタントさんにも「ここどうするんですか」っていわれて、妹尾は「あたしわかんないからね、そういうの」って。
――(一同・爆笑)
小林 「何かすごい効果」ってことにしておいて(笑)。
小沢 すごい情報量を表すスケール感が必要ですが、3Dの空間に球体とかリングや線が飛んでるみたいな表現はしたくなかった。この世界ではこれが「現実」ですし。
小林 それで行き着いたのが……。これ、読めないと思いますけど原作のテキストが敷き詰められてるんです。
――えっ! そうだったんですか!?
かっぴー なんでもいいからテキストを用意したいということになったので、せっかくだから原作のテキストを使ったらどうかなと。
小沢 テキストを手にしてどうしようかなと考えて……。最終的にこれしかないと思いました。文字が書いてあるのはわかるけど読みづらいことで、「フラッシュトークは普通の人には見えず、アイにだけ伝わる」という意味合いも表現できると。
小林 すごくいい演出になりましたよね。未来予報の伏線にもなっているし。
――「フラッシュトーク」なるものが何なのか、読み手も感覚的に受け取れる演出だと思います。マンガならではの力ですね。
小沢 それから、アイが指向性スピーカーに話しかけるシーンも難題でした。指向性スピーカーを絵で見せるってだいぶ無理があるんですけど。ここのエフェクトは気に入ってます。フキダシもそれっぽいのに変えて。
かっぴー マンガ表現としての技がすごく多いんで、1ページごとに見応えがありますよね。じっくり眺めてしまう。
小沢 あと工夫したのはイケボの表現です。フォントが違うんですよ。“イケボフォント”って名づけて。
小林 うめ先生は絵がうまいだけじゃなく、めちゃくちゃマンガがうまいんだと改めて実感しました。
取材・構成:粟生こずえ
現在、「マンガトリガー」では「イケボ選手権」を実施中! 『アイとアイザワ』単行本第一巻の発売を記念して、実態のないアイザワにハマる“イケボの持ち主”と、そのイケボに惚れこむ”アイの声”を募集するための企画とのこと! おもしろそう!
ぜひ、みなさんも挑戦してみよう!