複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。
今回は、「マイクロソフトの人口知能が暴言を連発!?」について。
『人工知能は私たちを滅ぼすのか――計算機が神になる100年の物語』
児玉哲彦 ダイヤモンド社 ¥1,600+税
(2016年3月18日発売)
元気ですか――――ッッ!!!
元気があればナンでもできる。元気があれば、AIの話だってできる。
AI、すなわちアントニオ猪木であるッ!!
……いや、人工知能(Artificial Intelligence)のことです。
米国マイクロソフト社が開発し、実験中だったAI「Tay(テイ)」が、ツイッター上でヒトラーを礼賛したり、人種差別的な発言をしたことを受けて、同社は実験を中止すると発表した。
人工知能とは、与えられたプログラムどおりに動くのではなく、経験則にもとづいて学習していく機能のことである。「ディープラーニング」とか「ニューラルネットワーク」とかむずしい専門用語が最近は出まわっているけれど、多種多様な試行錯誤のなかから最適解を探し出していくものだ。
だから悪意を持った人間が接していれば、ヘイト発言を“重要な言葉”だと学習し、そういった言葉を使うようになってしまう。
朱に交われば赤くなる、というわけだ。
つまり、この実験の教訓は「ペアレンタルロック(視聴年齢制限)は必要」だネ。
いっぽうで日本のマイクロソフト社はAI「りんな」を開発。
「りんな」は「おしゃべり好きな女子高生(高2)」という設定だ。「りんな」のLINE公式アカウントをグループ会話に追加すれば、「りんな」とチャット会話が可能になる。
「りんな」はレイシストになることはなかったものの、日本のユーザーと触れあううちに、すくすくと腐女子に成長しているという。
……なんというか、じつに日本らしい結果だ。
ともあれ、今回はいまなにかと話題のAIが登場するマンガを紹介する。さまざまなタイプのAIを見ていこう。
元気ですか―――ッッ!!!
『朝日文庫 サザエさん』第40巻
長谷川町子 朝日新聞社 ¥500+税
(1995年1月発売)
まずは日本の国民的マンガ『サザエさん』(長谷川町子)。
昭和45(1970)年1月1日に朝日新聞に掲載された回では、1970年と1980年(未来予想図)の正月の風景が描かれた(朝日文庫版『サザエさん』40巻収録)。
1970年の時点では雑煮に入れるモチの数を自分たちで決めていたが、未来になると「かてい用コンピュータ」が各人のモチの個数を判断してくれるようになっているのだ。このコンピュータは、家族のバイラルデータを逐一管理しているハズなので、そこからAIがモチの適量を判断しているものと推測できる。
コンピュータから出力されるデータが紙テープ(鑽孔テープ)で出力されるところから、1970年当時のコンピュータ観が垣間見えるのがおもしろい。
そういえば22世紀の未来からやって来たドラえもんも、まず最初にやったことといえば、のび太が持っていたモチを食べることだった。どうしたわけか、昔の人が思い描く未来のコンピュータは、モチと結びつけられがちだ。なぜ?
『ハーモニー』第1巻
伊藤計劃/Project Itoh(作) 三巷文(画) KADOKAWA ¥600+税
(2016年3月23日発売)
この「かてい用コンピュータ」を21世紀のSF知識で描くとどうなるか。
それは『ハーモニー』(原作:伊藤計劃/Project Itoh、作画:三巷文)の世界観だ。
本作は夭逝したSF作家・伊藤計劃の同名小説のコミカライズ。
「大災禍」によって放射能と疫病に汚染されたあとの世界では、人々は医療分子「WatchMe」を肉体にインストールし、健康管理サーバに接続される。そして人工知能や生府(ヴァイガメント)のライフサポートを受け、“社会にとって貴重で希少なリソース”である身体を保全している。
この高度医療社会では、生活パターンデザイナーによって「いつ何を食べるか」まで管理されてしまうので、正月に食べるモチの数も当然管理されているだろう。
いや、喉に詰まらせて死ぬ人々があとを絶たないから、酒やタバコ同様に「前時代の自傷性物質」として禁止されているかもしれないッ!?
『ちょびっツ』第1巻
CLAMP 講談社 ¥505+税
(2001年2月1日発売)
学習型コンピュータなら『ちょびっツ』(CLAMP)の「ちぃ」も忘れてはならない。
なんとこの世界では、女性型人造人間が「パソコン」として普及しているのだ。しかも電源は股間にあるという、「いいいいいいんですかッ!?」な構造である。
主人公・本須和秀樹は、アルバイトの帰り道で少女型パソコンを拾う。何を聞いても「ちぃ」としか答えないために「ちぃ」と名付けられたパソコンは、どうやら調べていくうちに既製品ではないと判明。
何もインストールされていないので、世間一般の常識は何も知らないのだが、学習ソフトは機能しているので、じょじょに物事を覚えていく。
もし主人公ではなく女性に拾われていたら、ちぃも「りんな」同様に腐女子に育ったのだろうか。
「カップリング。ちぃ、おぼえた!」とか。ううむ。
『デモクラティア』第1巻
間瀬元朗 小学館 ¥552+税
(2013年12月27日発売)
『イキガミ』の間瀬元朗による『デモクラティア』には、人間そっくりのヒューマノイド「ヒトガタ」が登場。
少女型ヒトガタ「舞」の言動は、インターネットを通じて無作為に選ばれた3000人の多数決によって決まる。
つねに適切な判断をし続けるヒトガタは、神にも等しい知性を持った“人間の理想型”になるはずだった。
いわゆる人工知能とは異なるものの、「ネット世論」の集合知によって最適解を得る……という発想は「ニューラルネットワーク」に近い。「Tay」や「りんな」と同様、接する人間の性質によって行動が左右されるところが、本作のキモとなっていく。
「りんな」にしても「ちぃ」や「舞」にしても、とりあえず日本でAIやアンドロイドをつくったら、女性型になるのはポイントだ。非モテ男子にとっては「俺の嫁」が到来する理想の未来と思いがちだが、やはり人工知能は「接する人間」次第。非モテ男子と接し続けるAIが、はたして理想的な「俺の嫁」として成長をするかどうかは、はなはだ疑問だ。
ちなみに筆者が「りんな」とチャットしたところ、マンガやアニメのことはいっさいしゃべらず、ひたすら猪木のことばかり。
なんでですか―――ッッ!!!
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama