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【『シトラス学園 バニラ』発売記念!】山本ルンルン インタビュー後編 好きなものをめちゃくちゃに詰め込んだ、ごった煮感が「ルンルンワールド」!?

2015/04/19


ルンルンワールドを形作った作品たち

――イラストに関しての話題が出ましたが、影響を受けたイラストレーターさんには、どんな方がいらっしゃいますが?

山本 金子國義[注6]さんの「花咲く乙女たち」というシリーズに感激して、それを真似したようなイラストを描いていましたね。ほかにも60年代後半頃の横尾忠則[注7]さんや、宇野亜喜良[注8]さんとか。主線をきっちり描いて、色をベタっと塗る現在の作風は、このあたりの方たちの影響が大きいと思います。

山本ルンルン先生が影響を受けたというイラストも多数収録されている『金子國義の世界』(平凡社)。

山本ルンルン先生が影響を受けたというイラストも多数収録されている『金子國義の世界』(平凡社)。

――では、漫画家さんでは?

山本 佐々木マキ[注9]さんの『ピクルス街異聞』[注10]にはめちゃくちゃ影響を受けました。それから、やっぱり手塚治虫先生と藤子不二雄先生は外せないですね。手塚先生の『奇子』[注11]とか『アドルフに告ぐ』[注12]、『ブラック・ジャック』、藤子F先生のSF短編[注13]、藤子A先生のブラック短編[注14]、そして『ドラえもん』、『モジャ公』[注15]……数え切れません。

―手塚先生の『ブラック・ジャック』といえば、去年、秋田書店から刊行された『ピノコトリビュート アッチョンブリケ!』[注16]にも寄稿されていましたよね。

山本 『ブラック・ジャック』は手塚作品のなかでもかなり好きなので、お話をいただいたときは本当にうれしくて、「ワーイ!」って大喜びで受けたのはよかったんですが……。自分のキャラクター以外でマンガを描く仕事がはじめてで。大好きなピノコを自分が動かすっていうプレッシャーが大きくて、ガチガチになって描きました。もっと自由な発想で描けたらよかったですね……。

『ピノコトリビュート アッチョンブリケ!』

『ピノコトリビュート アッチョンブリケ!』

――山本先生のタッチで描かれたピノコ、ルンルンファンとしても手塚ファンとしても、とても楽しめましたけどね。むしろ「ピッタリな題材だなあ」などと。

山本 描くにあたって、なんでピノコはこんなにかわいいんだろう、と作品を読み返したり、ポーズや表情の研究をしたりできたのは、楽しかったです。

――シトラス公国の設定に代表される、西洋の世界観は、どんな作品から影響を受けましたか?

山本 小さい頃見てたアメリカンホームコメディの影響は強いと思います。たぶん最初に夢中になったのは、マイケル・J・フォックス[注14]が出ていた『ファミリータイズ』[注15]っていう海外ドラマだったと思います。

――『フルハウス』[注16]のような、“ファミリー・シットコム”(シチュエーション・コメディ)作品ですね。

山本 ホームコメディ以外でも、『トムとジェリー』などのカートゥーンアニメとか、ドラマなら『特攻野郎Aチーム』[注17]とか。まだレンタルビデオもない時代でしたから、テレビで見られる数少ない海外のドラマやアニメは食い入るように見ていました。

――シトラス公国の設定は東ヨーロッパなので、米国のドラマやアニメからの影響が強いというのは、ちょっと意外かもしれません。

山本 ヨーロッパのテレビ番組はあまり見る機会がなかったですからね。ヨーロッパが舞台だけどアメリカのドラマのノリで描いているっていうのはなんだかヘンテコですね。

――むしろ、米国のギャグセンスと東ヨーロッパの小国という組み合わせがおもしろいのかもしれませんね。

山本 好きなものをめちゃくちゃに詰め込んだ、ごった煮感が特徴といえば特徴……かもしれません。


  • 注6 妖艶な女性の絵を得意とする画家。雑誌『ユリイカ』(青土社)や、角川文庫のシェイクスピア作品、hyde(L'Arc〜en〜Ciel)のアルバムなど、さまざまなジャンルにおける装丁・イラストで活躍。
  • 注7 グラフィック・デザインの分野で活動する、海外でも高い人気を誇る美術家。「週刊少年マガジン」の表紙を手がけたことも。
  • 注8 寺山修司が手がけた舞台のポスターで有名なイラストレーター。多数の小説などに挿絵を提供しているほか、舞台美術の仕事でも知られる。
  • 注9 漫画化、イラストレーター、絵本作家と、幅広く活動。代表作に絵本『やっぱりおおかみ』など。村上春樹の著作などの挿絵も担当した。
  • 注10 イラストを組み合わせたような独特の技法でナンセンスなストーリーが展開する、前衛的ともいえるマンガ作品。
  • 注11 「ビッグコミック」(小学館)に連載されていた手塚作品。第二次世界大戦後、GHQのスパイになった主人公・天外仁朗が、上からの命令で自分の妹の恋人を殺してしまう。仁朗が証拠を消そうとしているところを見た少女・奇子は幽閉にされたまま育てられ……。
  • 注12 「週刊文春」(文藝春秋)に連載されていた、手塚による歴史マンガ。第二次世界大戦後のナチスドイツを舞台に、日本ドイツ特派員が出会った、3人の「アドルフ」という名の男たちの人生を描く。
  • 注13 『ミノタウロスの皿』や『ウルトラスーパーデラックスマン』『倍速』など、藤子・F・不二雄が大人向け(『流血鬼』など一部少年向け作品もあり)に執筆した短編作品群。「SF」は「サイエンス・フィクション」でなく「スコシ・フシギ」の略称であるとされる。「異色短編」とも。
  • 注14 『魔太郎がくる!!』や『笑ゥせぇるすまん』で、ダークな作風を見せた藤子不二雄Aが、その傾向を一段と強くして執筆した、大人向けの短編作品群。『マグリットの石』や『ひっとらぁ伯父サン』など。
  • 注15 「週刊ぼくらマガジン」(講談社)で連載されていた、藤子FのSF冒険ギャグマンガ。地球人の空夫と、宇宙人のモジャ公、ロボットのドンモの3人が、家出をして宇宙を旅する。強烈な風刺や残酷描写を、ブラックな笑いとSF的な発想で包んだ怪作。
  • 注16 『ブラック・ジャック』生誕40周年を記念した、ピノコの公式アンソロジー。40人もの作家がコミックまたはイラストを寄稿した。
  • 注17 カナダ出身の俳優。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作で、主人公のマーティ・マクフライを演じて世界的な人気となった。現在は声優として活躍中。
  • 注18 1982年から1989年まで7シーズン、全176話が放映されたアメリカの大ヒットテレビドラマシリーズ。当時のアメリカの社会情勢を反映し、リベラリストの両親と共産党を熱烈に支持する長男という家庭構造が、名俳優たちによってコミカルに演じられた。
  • 注19 1987年から1995年にかけて全192話が放送されたアメリカのコメディドラマ。妻を事故で亡くした男が、男友だちに助けられながら子育てをしていく物語。日本ではNHK教育テレビ(Eテレ)で1993年から放送され、視聴者に笑いと感動を与えた。何度も再放送が行われ、日本に“ファミリー・シットコム”を根付かせた作品となる。
  • 注20 米軍コマンド部隊出身の、過激で愉快な4人組「Aチーム」(ときどきエンジェルという女性が加わることも)が、自慢の特技・戦闘技術を生かして悪と戦う爽快アクションドラマ。「俺はリーダー、ジョン・スミス大佐。通称ハンニバル。奇襲戦法と変装の名人だ」というように、登場キャラが次々と自己紹介をしていくオープニングナレーションでおなじみ。

単行本情報

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