「山本ルンルン」という存在が描きたいもの
――山本先生は「朝日小学生新聞」が一番長い連載媒体ですよね。
山本 漫画家としての根城みたいになっていますね。
――「朝日小学生新聞」でのフルカラーマンガは、かなり特殊な連載だと思いますが、どういった経緯で連載をもつようになったんですか?
山本 当時、私は『シトラス学園』1本しか連載を持ってなくて、それだと食べていけなかったんですね。ちょうどその時、友達が「朝日小学生新聞」で漫画家さんを募集しているっていう記事を見つけてくれて。ちょうど子どもたちが出てくるマンガ(『シトラス学園』)を描いていたので、子どもが主人公の話なら「朝日小学生新聞」に合うんじゃないかな、と思って応募したんです。
――小学生向けの作品を描いてみたい、という気持ちもあったんですか?
山本 いえ、「子供向けのマンガを描こう!」っていう気概みたいなものはなくて、子供が出ているマンガしか描けないという、本当にただそれだけの理由でした(笑)。
――カラー作品という形式は、募集時から決まっていたんですか?
山本 いえ。応募した白黒のマンガを見た担当さんの「色をつけたらかわいいんじゃない?」って提案に、たしかにカラーだと洋服の柄や壁紙なんかもいろいろ描けるし、楽しいな……と思って軽い気持ちで受けちゃったんです。
――最初からカラーで描ける人を募集していたわけではなかったと。自分で茨の道を歩み始めたんですね。
山本 正直、深く考えてなくて(笑)。ちょうど「朝日小学生新聞」の紙面もカラーになり始めたころだったので、編集部で「どうせならマンガもカラーのほうが子どもが喜ぶんじゃないかな?」って感じだったんだと思います。でも、作業量は膨大ですが、カラーの方が悩みません。白黒のマンガの方が、画面のバランスを考えたりするのにとても神経を使いますよ。
――小学生向けの新聞なので、やはり小学生からファンレターがたくさん届いたりするんですか?
山本 「朝日小学生新聞」でやっていてよかったなって思うのは本当にそこで、子どもたちは感想の手紙や似顔絵なんかをとてもまめに描いてくれるので、それがすごく励みになりますね。
――12年間、フルカラーのマンガを描き続けているのは、本当に頭が下がります。
山本 ただ、量産できるタイプではないので、今は1年のうち4カ月間だけの連載です。一般のマンガに置き換えると、だいたい月刊誌で30ページの連載をやっているのと同じくらいですかね。
――月に30ページのカラー連載、十分すごいですよ! その間に、ほかの読み切り作品やイラストなども描いているわけですし。
山本 でも、私と交代で連載している『落第忍者乱太郎』の尼子騒兵衛[注22]先生は、もっと描いていますからすごいです!
――また来年の1月から掲載が始まる『はずんで!パパモッコ』も楽しみにしています。
山本 ありがとうございます。新聞連載は年明けからですが、じつは「はずんで!パパモッコ」の5巻と6巻が12月中に同時発売される予定です。こちらもぜひよろしくお願いいたします。
――『オリオン街』にはじまり、現在の『はずんで! パパモッコ』に至るまで、12年も連載が続いているわけですが、小学生向け媒体での長期連載は、どんな部分が難しいですか?
山本 読者が自動的に入れかわっていくので、小学生が楽しめるものをコンスタントに出していかなきゃとは思いますね。たとえば普通だったら、1つのアイデアに対して「これは前に似た話を描いたから、もう描かない」ってなるんですが、「朝日小学生新聞」の場合は(たとえ以前と似た話であっても)オーソドックスな展開をたもっていかなきゃと意識しています。一方で、「月刊flowers」のようなマンガ雑誌で描く時は、常に新しいことをやっていきたいという気持ちがありますね。
――『ないしょの話』収録の「空色のリリィ」がゾンビものだったのには驚きましたが、次はもっとすごいテーマで作品を描くかもしれないんですね。
山本 できたらいいな、とは思っています。とても難しいけど……やってみたいなと思っているのにやれていないことはまだまだあるので。
――KADOKAWAさんから出ている「ハルタ」というマンガ雑誌にも、作品が掲載されましたよね。
山本 「オリビアのいる世界」という、28ページの読み切りが載っています。「ハルタ」では初めて描かせてもらいました。
――今まで「月刊flowers」などの少女マンガ雑誌を手に取る機会がなかった人たちにも、読んでもらえるのでは? それこそ、昔「朝日小学生新聞」の連載を読んでいた男性読者とか。
山本 そうなるとうれしいですね。
――新しいことに挑戦しつつ、デビュー連載の『シトラス学園』やアニメ化した『マシュマロ通信』から、作品のスタイルそのものにはブレがない、以前の読者がまた戻ってこれるというのは、やっぱりすごいと思います。
山本 「山本ルンルン」を名乗った時から、明確に自分のスタイルができた気はします。本名でマンガを描いていた時は、迷いがありましたから。
――なるほど、名は体を表すというか。
山本 デビュー作が「ルンルン」という名前で載った時、こんなふざけたペンネーム、あとあと後悔するだろうな……とうすうす感じてはいたんですが(笑)、作風に合っているし、今はもうふっきれました。
――たしかに、マンガ界にはモンキー・パンチ[注23]先生もいますし、なんとでもなるなって思いますね。
山本 かっこいいですよね。私は「ルンルン」って名前に恥じぬよう、ハッピーでサイケデリックなおばあさん漫画家にならないといけませんね。
――楳図かずお[注24]先生のような感じですか?
山本 ああ、素敵ですよね。水森亜土[注25]さんとか。私自身もメルヘンな存在になれるようにがんばります!
- 注22 1986年に連載が開始し、以降30年近く「朝日小学生新聞」で『落第忍者乱太郎』を連載している漫画家。『乱太郎』は『忍たま乱太郎』のタイトルでテレビアニメや実写映画にも。
- 注23 アメリカンコミックに影響を受けた、無国籍で都会的なタッチが特徴の漫画家。アルセーヌ・ルパンの孫とされる怪盗の活躍を描いた代表作『ルパン三世』で、絶大な人気を得る。
- 注24 SF・ギャグ・ホラーなど、幅広いジャンルを描く漫画家であり、同時にテレビタレント、歌手、作詞家、映画監督などとしてもマルチに活躍。代表作に『漂流教室』『まことちゃん』『おろち』など。常に赤と白のボーダーシャツを着ていることでも有名で、同じく赤と白のボーダーカラーで塗られた「まことちゃんハウス」を自宅とする。
- 注25 透明なアクリルボードへ、両手に握ったペンを使って、メルヘンチックな絵を描きつつ歌い踊る姿でおなじみのイラストレーター。歌手・女優としても活動しており、アニメ『ひみつのアッコちゃん』『Dr.スランプ アラレちゃん』の主題歌なども担当。
取材・構成:編集部 構成協力:山田幸彦