痛さ、笑い、恐怖、そして感動…… 心ゆさぶる出世作『空が灰色だから』
――『空が灰色だから』は連載が始まった当時、これまでになかったタイプの異色ショートマンガとして話題になりました。1話読み切りの連載を長く続けるうえで苦労した点は?
阿部 苦労した点というか、少年誌だったので毎回キャラが変わるのは盛り上がりにかける部分があるし、長編マンガを描くことなく、ずっとこういう形態で週刊連載を続けることはないだろうなって思っていました。週刊連載のいいところは、月に4作あげるので、描きたいことがたくさんあっても、テーマを分散して丁寧に描けるんです。月1連載とかだと、描きたいことを詰め込んでしまったり、テーマ自体も厳選してしまうから、かたよりがでると思います。
――先生ご自身が特に気に入っているお話を教えてください。
阿部 内容や出来が気に入ってるというより、自分のなかで描いてて発見があったものが印象に残ってるんですが、3巻の「世界は悪に満ちている」です。ネームを描いた時に、それまでとは違う感覚を得たので。ショートを描いてて今まで自分がまだ出せてないものをこれで描けたというか。
――イタい成人女子を思いっきりイタく描きつつも、短いなかに救いがある作品です。
阿部 あと、4巻の『初めましてさようなら』。キャラデザの段階でなんとなく2人ともちっこい子にして、いざ絵を入れていったらどんどん2人のセリフが変わって。特に磯部っちょのほうはかなり動いてくれた感じで楽しかったし、描きごたえがありましたね。最初ネーム描いた時はあんまり思い入れ深くなかったんですけど。この時、なんとなく自分のマンガの描きかたがつかめてきた感じはありました。
――2人の会話にグイグイ引っぱられながらいろんな感情がわいて、最後に「ええ〜っ」と思わされましたね、これは!
阿部 それから5巻の「マルラマルシーマルー」。なんだか『空が灰色だから』で積んだ経験値の総決算って感じで。
――ギャグかと思えばホラーも感じさせる……なのに最後にはなぜかいい話みたいになっているところがすごい。
阿部 あと最終話「歩み」はキチっと描けた気がします。
――これは厳しい作品ですよね。辛口のラストがなんともいえず、胸に迫りました。
阿部 ありがとうございます。『空が灰色だから』らしい最終話を描けたかなって思います。ストーリーとは別なんですけど、2巻の「世界の中心」の犬神というキャラは、なんかもっと別の話を描いても楽しそうとか思います。あと3巻の「少女の異常な普通」の大垣内(おおがいと)ももっと描けそうだなとか。どうしてもストーリー先行の1話完結なので、仕方ないんですけど、もうちょっと描きたいなってキャラもいますね。まあ、もう描くことはないんですが。
――こうしてうかがっていると、ショート作品なんですけど、ネタだけではなくてどの作品もキャラが生きていることに改めて気づかされます。
阿部 ほかには同じ3巻の「ただ、ひとりでも仲間がほしい」も、話自体けっこう好きなんですが……来生(きすぎ)というキャラが、こいつはいじめたほうが輝くキャラになっていて、もったいないので、単行本のオマケで前日譚マンガを描き下ろしました。