「繰り返す」構成で描くショートマンガが好き
――作品集『大好きが虫はタダシくんの』のタイトル作は、『空が灰色だから』よりかなり前に、阿部先生のホームページに発表された作品だったんですね。いや、とても衝撃的な作品でした。
阿部 初連載の『ドラゴンスワロウ』が終わったあと、ネット上で短いマンガを公開してたんです。当時はショートを趣味で描いてたんですけど、今となれば自分の基盤となるような存在です。しかし、今見返しても、自分の作品のなかでも異様な作りで、もう一度こういうのが描けたらなって思います。描けないかもしれませんが。
――こうした作品の着想はどんなふうに生まれるのでしょう。
阿部 発想自体は、あまり記憶にないですが、繰り返す構成が好きで……まさに「繰り返す」がテーマで描き始めたと思います。
――なんというか……完全に新しいマンガといっていいくらいの衝撃があると思います。ところで、この単行本の冒頭の作品は「灰色」ですが、先生にとって「灰色」は特別な色なのでしょうか?
阿部 そこまで特別じゃないですけど、カラーイラストでもよく使う色ですね。意味としては黒でもない白でもないとか、色のない淋しさとか、けっこう特殊な位置ですね。ちなみに好きな色は水色です。
――この単行本に収録されている『ドラゴンスワロウ』は、いちばんギャグマンガらしいギャグマンガかなと思います。
阿部 「週刊少年チャンピオン」でデビューして間もない頃に、『浦安鉄筋家族』の新連載に合わせて「浦安web」が立ち上がって、そのサイト上で週刊で4ページ連載のお話をいただきまして。たしかギャグやコメディ作品ばかりが掲載されていたので、そのなかで自分の世界を出せたらと思いながら作ってた記憶があります。
――これが初連載作品だったんですね。
阿部 はい。初めて生活のすべてを自分のマンガにかけられる許可が出たようなものなので、うれしかったですね。自分の表現したいことを自分の思うように世に発信できるってのは幸せなことです。
――漫画家になってうれしいと感じるのはどんな時ですか?
阿部 やりたいことやらせてもらって、生活ができるのはすごくありがたいです。あと平日の昼間に気分で仕事を中断できたり酒飲めたり、散歩できたり。でも、プロじゃない頃から憧れていた漫画家の先生方と同じ世界で同じことをしてるってのは恐れ多くもあるけど、すごいことだなって思います。いまだに実感がないですが……。こわいです。
――マンガを描いていて、いちばん好きな作業、いちばん苦しいと感じる作業は?
阿部 好きな作業は特にないですけど、次の話はどんなのにしようかと考えたり、空想してる時はなんの負担もなくて楽ですね。苦しいというか、作画はなかなかたいへんですね。時間が計算しにくいので。
――作品を描くうえで信条としていることはありますか?
阿部 できるだけ、おもしろくっていうか、読んでなにか残るようなものをとか、自分の描きたいことを信じて描くとかですかね。でもその時々なので、ないのかもしれません。
――漫画家として、何か目標や夢はありますか?
阿部 前回よりもよいものというか、ちゃんと満足してもらえるマンガを作ることです。
――2014年12月10日には『死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々』の1巻が刊行されました。本作について、おすすめポイント、見どころなどをお願いします。
阿部 基本、1話読み切りのオムニバスショート集です。ジャンルはあっちこっちいってる感じでちょっと説明が難しいのですが、思春期くらいの男女が泣いたり笑ったりする日常ものです。つくりは『空が灰色だから』と同じですが、あえて比べるといろんな意味でしばりがゆるいショート集かなと思います。自分はショートマンガを描くのが好きなので、気ままに気長に描きたいと思ってます。短編集や『空が灰色だから』が好きな方はぜひ!
取材・構成:粟生こずえ