意外な人気キャラ!?
怖い女ナンバーワンのマーガレット
――しかし、リチャードに冷たく接する母親のセシリー、夫であるヘンリーを罵倒するマーガレット、そしてリチャードの兄・エドワードに近づくエリザベスといい、意思の強さや底力を感じる女性キャラが多いですよね。こうした強い女性はお好きですか?
菅野 よくも悪くも迫力のある堂々とした女性が好きです。シェイクスピアの描く女性、そして歴史上もそうですが男尊女卑の思想から「悪い女」というふうに描かれているにもかかわらず、見る側がなぜか魅力的に感じるというのがおもしろいですよね。
――それぞれ美しいだけでなく意地悪い顔、策謀をめぐらす表情にゾクゾクするところが多いです。
菅野 セシリーは「いわゆる女っぽさ」が一番強いキャラクターです。実際はこんなに悪い人ではなかったと思うのですが、このキャラばかりはシェイクスピアの作ったキャラに沿って描いている感じです。
――マーガレットは、優しいヘンリーとの対比もあいまってその激しさ、勇ましさが際立ちますね。
菅野 容赦なく怖いので描いていてスカッとするというか……シェイクスピアの『ヘンリー六世』でもいちばんスカッとするキャラですね。彼女の不倫愛の部分は『薔薇王』ではちゃんと描けていないのですが、『ヘンリー六世』だとかなり熱く繰り広げられていておもしろいです。
――エリザベスはこれまた、つかみどころがなさそうで恐ろしいです(笑)。
菅野 瞳孔の描きかたをひとりだけ変えてるんです。史実からも、彼女はリチャードの生涯のライバルだと感じたので、原案よりも強めのキャラ付けをしました。気づくとどんどん巨乳になっていってしまうのが悩みですね。キャラクターはやはりかわいげのある男キャラが人気ですが、意外と怖い女の人のキャラも「いい」と言ってくださる方が多くてうれしいです。
――これまで、先生ご自身が特に気に入っているエピソードは?
菅野 たくさんありますが特に父の死の一連、エドワード王とウォリックの決裂のシーンは楽しく描きました。
――ここは……「あ、歴史ってこういう局面があって動いていくんだな!」という感慨がありました!
菅野 4巻はアンとリチャードの関係、ウォリックの復讐がメインとなります。久々に登場するキャラも楽しみにしていただけるとうれしいです。4巻にあまり描かれなかったキャラは5巻をお待ちいただければと。みんな気に入っているのですが、ウォリックは描いていて、ビジュアル的にもキャラクター的にも楽しいですね。バッキンガムも楽しいです。ナンバー2的な立ち位置が昔から好きなので。
――フィクサー的なキャラが魅力的なのも、『薔薇王』のおもしろさの理由のひとつだと思います。この当時の世界をもっと知りたくなりますが、シェイクスピア以外にもおすすめの本があれば教えてください。
菅野 歴史としては『イングランドの中世騎士』[注3]などの「オスプレイ戦史シリーズ」や森護さん[注4]の本。文化的な面でいうと『中世ヨーロッパの都市の生活』(F・ギース、J・ギース)[注5]などが楽しく読みやすいと思います。読者さんからいただくお手紙など読ませていただくと、歴史やテーマ、キャラ心理など本当に深く理解してくださっていて驚きますし、作家冥利に尽きます。「続きが気になる」と言ってくださるご感想が多くて、このうえなくうれしいです。
――結末は決めていらっしゃいますか?
菅野 原案や歴史があるので、その流れに沿って最後まで描く予定です。マンガを描く時はいつもそうですが、結末は描いているうちにキャラクターが決めてくれると思います。『薔薇王』では今までに自分で描いたことのない表現を探す、自分のなかのタブーを破っていく、ということを課題と楽しみにして描いています。読み込むほど、理解するほどによりおもしろくなるネタを潜ませつつ、それでいてエンタメ――とにかく純粋にマンガとして楽しめるものを目指しています!
●次回予告マンガ大好き少女だった菅野先生が漫画家になった道のりや、ドラマ化もされたメガヒット作『オトメン(乙男)』についてなど、次回もお見逃しなく!
- 注3 『イングランドの中世騎士』 中世後期のイングランド騎士に焦点を当て、装備や生活スタイルについて解説した1冊。新紀元社より出版。
- 注4 森護 1923~2000年。奈良県生まれ。日本の紋章学者で、専門は西洋紋章学と英国王室史。著書に『英国王室史話』『英国紋章物語』『ヨーロッパの紋章』など。大阪港紋章の製作を指導・監修した。
- 注5 『中世ヨーロッパの都市の生活』 1250年、シャンパーニュ伯領の中心都市・トロワに住む人々の生活や行事、都市機構などを豊富なエピソードとともに描く。著者は中世の歴史を書き続ける米国作家のジョゼフ・ギースとフランシス・ギース。
取材・構成:粟生こずえ