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【インタビュー】大人が読んで共感できるガンダムが作りたかった 『機動戦士ガンダム サンダーボルト』太田垣康男【前編】

2014/06/20


『サンダーボルト』用にリファインしたMSのデザイン

――ガンダムファンはMSのことも聞きたいと思います。『サンダーボルト』にはMSV[注14]の機体がよく出てきますよね。ゲルググもMSVの高機動型ですし。

『機動戦士ガンダム サンダーボルト』に登場するMSは、どれも太田垣先生の手によってリファインされている。

『機動戦士ガンダム サンダーボルト』に登場するMSは、どれも太田垣先生の手によってリファインされている。

太田垣 MSVを登場させることは、かなり意識しています。というのも、twitterでイラストをアップしていたときに、『ガンダム』に出てくる機体はけっこう描いちゃったんですよ。連載をやる時に同じだとつまらないなぁ、と思いまして。それなら連載用にはMSVを、しかもリアリティのあるものを描こうと意識しました。

――イオが乗るFAガンダム[注15]も、もとはMSVにありましたね。

太田垣 MSVがアニメシリーズに出てくることはあっても、主役が搭乗して活躍するような作品は、なかったと思います。

――――複数のシールドを装備していて、しかもそれをデブリ[注16]避けに使っているというのが「さすが、太田垣先生!」とファンの間で話題になりました。

シールドは手で持つもの。そんな常識にとらわれていた読者には大きな衝撃をあたえたFAガンダムのデザイン。

シールドは手で持つもの。そんな常識にとらわれていた読者には大きな衝撃をあたえたFAガンダムのデザイン。

太田垣 どうしても地上の感覚だと、シールドをたくさんつけると、抵抗のことを考えてしまうんですけど、でも宇宙には抵抗がないですからね。シールドを支えられる質量さえあれば、いくらでも着けられる。で、360度どこから攻撃されるかわからない状況だから、シールドはいっぱいあったほうがいいはずだ、と。

――その延長上にあのFAガンダムが生まれる、ということがすごく直感的に理解できるデザインでした。

太田垣 舞台が決まったあとに、出す機体も決まりました。FAガンダムは出したいと思っていたんですけど、もとのMSVのままだと、あまり宇宙用というイメージがない。なので、まずサンダーボルト宙域という設定を作り、そのなかで運用するにはどういった装備が合理的なのかを考え、シールドが4枚あるデザインに落ち着きました。

―― 一方のサイコ・ザク[注17]は?

リユース・サイコ・デバイスによりサイコ・ザクは圧倒的な機動力を発揮する。

リユース・サイコ・デバイスによりサイコ・ザクは圧倒的な機動力を発揮する。

太田垣 ザクのほうは、防御をスピードでカバーする機体としてデザインしました。できるだけ武器もたくさん持って、長時間戦えるように……というコンセプトです。1回出撃してすぐ帰ってくるというのは、航空機の発想ですからね。宇宙の場合は墜落しませんから。行って帰って整備して……だとコストがかかりすぎると思うんです。1回出撃したら、少なくとも2~3日は戦い続ける、くらいじゃないとムダですよ。だったら増加タンクとか予備のバックアップをいろいろ積んで出撃したほうがいい、そういうデザインにしよう、となったわけです。

――『サンダーボルト』ではジムもコア・ブロック・システム[注18]を採用していますね。

太田垣 一年戦争も後期ですしね。出撃する以上は、脱出用とか生命維持装置がないと、なかなか兵士も進んで乗ることができないと思いますから。

――MSを描くときに、一番こだわっているのはどこでしょうか?

太田垣 関節です。腕を曲げたときとか、各パーツのパースがそれぞれ変わるんですね。それをひとつに見せるには、関節部分のつながりがうまくいってないと、嘘っぽくなっちゃうんです。

――プラモデルを参考にしたり?

太田垣 あ、しますよ。『サンダーボルト』のMSも、バンダイさんが出してくれました[注19]から。でも、MSにも演技力をつけるために、マンガの中では可動域以上に動かしちゃってます。これはマンガ的な感覚ですが、あまり人間と違う関節の動きをMSがすると、感情移入してもらえなくなってしまいます。だから人間の体みたいに腰を落として、「さあ今から動くぞ」っていうポーズだと伝わりやすいんですよ。

――そういえば太田垣先生の描くMSは、関節部分が覆われていて、スペースシャトルっぽいです。

太田垣 スペースシャトルのカナダアーム[注20]ですね。あれは関節部分をすべて布で覆っています。機械って釘一本入っただけで動かなくなるような場合もあるので、デブリが入り込まないように保護してるんですね。ましてや『サンダーボルト』の場合、戦闘状態で破片だらけの宙域が物語の舞台ですから。デブリです!(笑)

――あの、ちょっと言いにくいんですが、太田垣先生が描くガンダムって、ちょっと顔が怖いですよね。

第3集P124より。セリフも相まってより"悪役”らしさがにじみ出るガンダムの表情。

第3集P124より。セリフも相まってより"悪役”らしさがにじみ出るガンダムの表情。

太田垣 ああ、『サンダーボルト』ではガンダムは悪役と考えていますからね。じつはアニメのセオリーとマンガのセオリーって、似ているようでいて違うんです。

――その違いとは?

太田垣 アニメだとガンダムは主人公の機体で、猛烈に強くて、絶対に負けない存在じゃないですか。そういう主人公が毎回勝つから、視聴者の爽快感につながるんですね。しかしマンガの場合、主人公は弱く、敵のほうが強いというのが定番です。

――とりわけ少年マンガはその構図が定番ですね。

太田垣 ただ『ガンダム』の世界では、 ガンダムより強いMSはいません。そう考えたときに「ガンダムが敵として出てくれば、読者は最強の敵として認識してくれるのでは?」と思ったんですね。『サンダーボルト』の主人公はイオとダリルのふたりなんですが、ガンダム(=イオ)はどちらかというと敵役。だから怖そうな顔にしています。

――ジオンが恐れる「連邦の白いヤツ」[注21]だ。

太田垣 やっぱりガンダムもザクも、目の形がいいんですよ。

――大河原邦男[注22]先生のデザインですね。

太田垣 大河原先生はマンガでメカを描くときに、大事な指針を与えてくれています。大河原先生のメカデザインって、記号化されているというか、ガンダムにしてもザクにしても「これさえおさえておけば、ちゃんとガンダムやザクに見える!」ってポイントがあるんです。それは目に特徴があるんですよ。そこさえ外さなければ、僕らがどれだけデザインをいじっても、ちゃんとガンダムに見えるし、ザクに見える。

――なるほどたしかに! ギャンやドムにも同様のことが言えますね。

太田垣 おかげで目の描き方で、感情を表現できるんです。ガンダムは人間の顔に近いぶんだけ、より凶悪な印象がつけられるんです。

――単眼のザクの場合は?

太田垣 ザクは、『ガンダム』では敵役でしたから怖い顔だったんですが、うっかりするとかわいくなっちゃうんですよね(笑)。なので連載初期は、あえてモノアイを点灯させていないんです。そうすることによって、ちょっと怖い印象を持たせています。でも、(凶悪な)ガンダムが出てきてからは、しっかりとモノアイを点灯させて、相対的に弱々しい印象にしてます。

――たしかに「ありがとう伍長」(第18話)と言って手を挙げているダリルのサイコ・ザクは、妙にかわいらしいです。しかし、あの直後にモノアイが消え、感情を殺して敵に突撃していきます。太田垣先生はMSに、目でも演技をさせているんですね。

連邦兵士の死を見つめるサイコザク。このシーンでもモノアイの点灯で感情を表している。

連邦兵士の死を見つめるサイコザク。このシーンでもモノアイの点灯で感情を表している。


  • 注14 モビルスーツバリエーション(MOBILE SUIT VARIATION)の略称。バンダイとサンライズによる、プラモデルシリーズの企画のこと。アニメ本編には登場しない、プラモデル独自のMSやMAをリリースした。
  • 注15 フルアーマーガンダム。作中でイオが搭乗する機体。 講談社「コミックボンボン」に連載されていたマンガ『プラモ狂四郎』に登場したパーフェクトガンダムを、MSVでプラモデル展開するためにデザイン的にリファインしたのがFAガンダム。のち『プラモ狂四郎』にもパーフェクトガンダムの後継機として登場し、パーフェクトガンダムIIとも呼ばれた。 『サンダーボルト』のFAガンダムは、このMSVのFAガンダムをさらにリファインする形で誕生した。
  • 注16 宇宙ゴミ、スペースデブリ。耐用年数を過ぎた人工衛星や、ロケット打ち上げ時に切り離された部品、ミサイルによって破壊した人工衛星の破片など、形状や種類はさまざま。地球の衛星軌道上を高速で周回しており、スペースデブリが衝突すると宇宙船が破壊されてしまうこともある。各国の宇宙開発競争によりスペースデブリは増加の一途をたどり、スペースデブリとの衝突事故も多発している。映画『ゼロ・グラビティ』は、スペースデブリがシャトルに衝突するところから物語が始まる。スペースデブリを扱った作品としては、『MOONLIGHT MILE』のほか、『プラネテス』(幸村誠)などもマンガ好きの支持は高い。
  • 注17 作中でダリルが搭乗する「リユース・サイコ・デバイス装備高機動型ザク」の略称。MSVシリーズにはMSN-01サイコミュ・システム高機動試験機(『ガンダムビルドファイターズ』に一瞬だけ登場!?)という白いザクもあるが、「あれとは無関係。『サンダーボルト』では、ニュータイプやサイコミュといった、ある種の超能力みたいなものは使わずに、なるべく現実的な肉弾戦に近い感じで物語を作りたい」(太田垣康男)とのこと。
  • 注18 『ガンダム』において、地球連邦軍がMSに採用した統一規格。戦闘機(コア・ファイター)が変形してMSの核となり、上半身(Aパーツ)と下半身(Bパーツ)を合体し、MSになる。ガンダム、ガンタンクなどに採用されている。アニメ『機動戦士ガンダム』に登場するジムにはコア・ブロック・システムが採用されていなかった。
  • 注19 『機動戦士ガンダム サンダーボルト』に登場するモビルスーツのうちFA-78-1フルアーマーガンダム、MS-06R高機動型ザク(サイコザク)、MS―06量産型ザク、RGM-79ジムがバンダイからプラモデルとして発売されている。6月21日(土)には、新たにMS-05BザクI(旧ザク)がラインナップに加わる。プラモデルつきの単行本限定版も話題になった。
  • 注20 スペースシャトルに搭載されているロボットアーム。正式名称は「シャトル・リモート・マニピュレータ・システム」だが、開発したのがカナダの企業であるため、カナダアームと呼ばれる。貨物をつかんで移動させる際に用いる。
  • 注21 『ガンダム』において主人公アムロ・レイが搭乗するガンダムは、あまりに戦果を挙げるため、ジオン公国軍の兵士からは「連邦の白いヤツ」と恐れられた。
  • 注22 アニメ作品のメカニカルデザイナー。『科学忍者隊ガッチャマン』や『タイムボカン』シリーズなど、数多くのアニメ作品でメカデザインを担当。『機動戦士ガンダム』のガンダムやザクなどのMSは大河原氏の手によるもの。

中編はコチラ!
【インタビュー】甲子園に行くように戦争に行く若い兵士を大人の目で見るリアル。 『機動戦士ガンダム サンダーボルト』太田垣康男【中編】
後編はコチラ!
【インタビュー】言葉なんかいらない。太田垣流ネーム術大公開! 『機動戦士ガンダム サンダーボルト』太田垣康男【後編】

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太田垣康男先生の直筆サイン入り『機動戦士ガンダム サンダーボルト』単行本第3巻を3名様にプレゼント!
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プレゼント応募は締め切りました。たくさんのご応募、誠にありがとうございました!

取材・構成:加山竜司
撮影:辺見真也

単行本情報

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