『ゴールデンカムイ』誕生秘話
——『ゴールデンカムイ』はどういったところから着想を得たのでしょうか?
野田 曾祖父が日露戦争へ行って、203高地で戦った屯田兵なんです。だから、その話はいつか描きたいと思っていました。それで前作『スピナマラダ!』終了後、担当編集さんが「北海道を舞台に猟師の話を描きませんか?」と持ちかけてきてくださいました。では主人公を日露戦争帰りの若者にしよう、と思い立ちました。
——おお! では最初は「狩猟マンガ」として構想しはじめたんですか?
野田 そうです。でも狩猟だけではすぐにネタが尽きそうだったので、いろんな要素を詰めこもうと考えました。
——たしかにさまざまな要素が複雑に絡みあっているのが、本作の特徴だと思います。
野田 アイヌや埋蔵金伝説、土方歳三や脱獄王。ヒグマの食害事件なんかも、北海道の歴史には純然と存在しているものです。そういった北海道にまつわるもので、自分がおもしろいと思う要素を拾っていっただけの話です。
——野田先生からアイデアやプロットが送られてきたときには、編集さんはどのような印象を抱きましたか?
担当 「やっときたな!」と。それまで野田先生とは、たくさんのネタ候補をやり取りしていました。そのどれもが、それなりにおもしろかったんです。ただ、この作品に関しては、読んだ瞬間に「カチッ」と音が聞こえた気がしました。
——本作に登場するさまざまな要素のなかに、アイヌ文化があります。これまでアイヌ文化がマンガで取りあげられることは、あまり多くなかったですよね? なぜこの題材を選んだのでしょうか?
野田 まさに「多くないから」ですね。読者さんにとっては、新鮮に感じたのではないでしょうか。デリケートな題材だから、だれもが尻込みしていたのもあると思います。やはり迫害や差別など、暗いイメージがついてまわりますし。でも、アイヌというテーマを明るくおもしろく描けば、人気が出るはずだと確信していました。取材でお会いしたアイヌの方からも言われたんですよ、「可哀想なアイヌなんてもう描かなくていい。強いアイヌを描いてくれ」と。
——そのあたり、編集部内ではどう判断されたのでしょうか? とくに近年はポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)が求められることが多い傾向にありますが。
担当 編集部の連載会議は、満場一致でとおりました。ありがたいことに、おもしろいものには正直な編集部です。ただ、編集部や弊社にはあまり経験と蓄積のないテーマでしたので、「覚悟が必要だぞ」とは言われました。もっとも野田先生にしても、連載会議にこのネタを出した時点で「覚悟完了」していましたので、そこは問題になりませんでした。
野田 たしかにデリケートな題材ではありますが、トラブルは悪意からではなく、無知からくるものだと思います。だからできるだけ勉強し、専門家のご意見を仰ぎながら作品を描いてます。そのうえでならば、強いアイヌやずる賢いアイヌを描いたって、いいと思うんです。同じ人間ですから。
——そのあたりの手応えはどうですか?
野田 こちらの真摯な姿勢は、アイヌの方たちにも伝わってくれていると感じます。うれしいことにアイヌ関係者の方たちからはいい反応をたくさんいただいています。
——タイトルは英語(ゴールデン)とアイヌ語(カムイ)の造語です。これはどのように決めたのでしょうか?
野田 ゴールデンは黄金。つまりウンコです。
——ええっ!?
野田 アイヌの信仰ではすべてのものに神様(カムイ)がいるので、ウンコにもいるはずです。ウソです。
——ちょっと(笑)。
野田 前作の『スピナマラダ!』は、僕の父はいまだにタイトルを正しく言えません。何度注意しても「マダラ」と言います。これではダメだと思いました。一発で憶えてもらえるタイトルじゃなきゃ、と。
——憶えやすいです、『ゴールデンカムイ』。
野田 ただ、ダサいという声もありました。しかし、ダサい印象なんて、内容でいくらでも払拭できると思いました。『ロボコップ』……この題名をダサイという映画ファンはいますか?そういうことですよ。
——なるほど。