ヒンナヒンナなアイヌ料理
——作中ではかなり料理や食事の場面をしっかりと描きこんでますよね。
野田 先ほど言ったように、構想の初期段階から「狩猟」というキーワードがあったんですね。狩猟というのは、捕まえて肉を食べて、毛皮や骨などを生活用品に利用したり、売ってお金にしたりするまで、すべてくっついているものだと思います。だから料理描写は必然でした。
——なるほど。アイヌ文化の豊穣さがわかるので、個人的にはアシリパさんの料理シーンはとても楽しみにしています。
野田 アイヌを調べていくうえで、食文化は無視できないおもしろいものでした。食器とかもデザインがいいので、ぜひ細密に描いてみたかったですね。
——多くの読者が、本作の料理シーンを見て「うまそう!」と感じてます。
野田 チタタプという言葉の響きが受けたと思います。「ヒンナ」とか「オソマ」とか、簡単なアイヌ語は言ってみたくなりますからね。
——「オソマ」、流行ってますね……。
野田 いつか流行語大賞に選ばれるといいですね。「そんなもんクソ食らえ」と言ってやりたいです。
——アイヌ料理に対する知識がないので、あえて質問させていただきたいのですが、アシリパさんがことあるごとに、杉元や白石に動物の脳みそを食べるように勧めますけど、あれはアイヌ文化では一般的なことなんでしょうか?
野田 どういうことですか?
——つまりその、日本人が外国人観光客に納豆を勧めるような、ちょっと相手の反応を伺うような意図があってのことなのかな? とも思ったんですね。
野田 いや、明治後期生まれのアイヌ女性の手記では、獲れた動物はなんでも脳みそに塩をかけて生で食べていたようですよ。アイヌに限らず猟師のあいだでは、鹿などの脳みそは食べられています。その場合は火を通してますけど。
——あ、では一般的な食習慣なんですね。
野田 僕もアナグマの脳みそを食べさせていただきましたが、おいしかったです。ヒンナでした。だからアシリパさんも、純粋においしいと思っているからこそ、杉元や白石に勧めているのだと思います。
——先生、実際に食べてらっしゃるんですね。
野田 北海道へ取材に行ったときには、フプチャ(松の葉の新芽)をむしって、担当さんとカメラマンさんと僕の3人で、口に入れ、3人同時に吐きましたよ。
——おお、3巻第22話と一緒のリアクションですね! ちなみに、これまで作中で描いた料理や動物で、とくに先生が気に入っているのはどれでしょう?
野田 カワウソの頭でしょうか。調理された物の資料がないので、カワウソの頭蓋骨を見ながら想像で描いたんです。しかし、ジビエ料理のシェフに「よく描けている」とほめていただきました。お気に入りの動物は、やはりヒグマでしょうか。作中では便利な召喚獣になってしまってますけどね。大きなヒグマの敷物を持っているんですが……。
——えっ!
野田 たまに頭から被って、クララのおばあさまの登場シーンの真似をしています。ひとりで。
——ひとりで!
次回、作品の魅力を支える強烈なキャラクターたちがいかにして生まれたのか、また作品世界にリアリティを与える細部へのこだわりなど、さらに作品を深く掘りさげるお話を伺った。
つづきはコチラ!
『ゴールデンカムイ』野田サトルインタビュー 「もっと変態を描かせてくれ!」複雑なキャラクターが作品をおもしろくする!!
取材・構成:加山竜司