過激な埼玉ネタは自分も県民だったからこそ描けた
――『翔んで埼玉』は未完に終わっていますが[注1]、“幻の埼玉県民”埼玉デュークとは何者なのかを知りたかったです。単行本あとがきでは、「じつは思いもよらない人物だった」というあらすじも考えていたと書かれていますが。
魔夜 どういう扱いにするつもりだったのか、今は全然覚えてないんです。
――どうしてもゴルゴ13ことデューク・東郷[注2]を連想しますが。
魔夜 デュークといえば、そのデュークさんですからね(笑)。『翔んで埼玉』の結末に関しては、最初の単行本(白泉社『やおい君の日常的でない生活』)に収録した時も、もうこれはこれでよしとするかなと。当時のことを思い出して……いや思い出せないですけど、ムリに掘り起こすのは自分の描きかたではないので。
――これだけ話題になると、当然続きを描いてほしいというラブコールが殺到すると思うのですが。
魔夜 無理です。
――即答ですか(笑)。
魔夜 そもそも当時、続きが描けなかったのも、横浜に引っ越してしまったからなんです。所沢に住んでたら「自虐」ですけど、横浜在住のヨソ者が描くわけにはいかなかったんですよ。
――先生、やさしいですね!
魔夜 もう所沢にもどるつもりはないですし……いえ、住んでる時は所沢が大好きになったんですよ。でも、今は横浜が大好きなので。
――では、横浜に舞台を移して『翔んで横浜』はどうでしょう。
魔夜 横浜では無理ですね。おしゃれな街ですし(笑)。埼玉だから描けたと思うんですよ。新潟でも無理。
――新潟はそれなりに大きな都市だから?
魔夜 それもあるし、東京にコンプレックスがないんですよ。別の文化が成立してますから。かといって、茨城や栃木でも描けなかったと思う。今度は根が深くなりすぎそうで。東京と微妙な距離感を持つ埼玉だから描けたんですね。
――池袋はどうですか? 「埼玉から一番近い東京」というイメージがありますけど。
魔夜 『翔んで池袋』はありかもしれないなあ。独特のごっちゃりした感じがある街だよね。かといってディープでもない。
――ぜひ『翔んで池袋』を! 一般的な娯楽施設やデートスポットがたくさんあって、西武文化の一拠点でもあり、ギャルやストリート文化のイメージもある一方、ここ最近では腐女子の街としても知られる……混沌としてますね。
魔夜 語るのに難しい街ですよね。これという軸がとらえにくいという意味では、埼玉と近いものがあるかも。
――では、最後に……埼玉県民の方々にひとことお願いします。
魔夜 どーもすみません(笑)。
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- [注1]未完に終わっている 『翔んで埼玉』は「花とゆめ」(白泉社)1983夏の別冊に掲載された第3話以降、続きは執筆されていない。ただし、全3話の連作としても十分に楽しめる構成にはなっている。
- [注2]ゴルゴ13ことデューク・東郷 さいとう・たかをの代表作『ゴルゴ13』の主人公である超A級スナイパー。「ゴルゴ13」や「G」と呼ばれるが、本名は不明。自称・他称ともに「デューク・東郷」を用いてはいるが、これは偽名と考えられている。また、名前だけでなく、生年月日・年齢・国籍・経歴、すべてにおいて作中でも明かされておらず、その正体を探るエピソードも複数存在する。
取材・構成:粟生こずえ
撮影:辺見真也