「週刊少年サンデー」での新連載に向けて
※先にご注意として……今回のインタビューはタイトル発表前に行ないました。新作『双亡亭壊すべし』は「週刊少年サンデー」で好評連載中です!
——いよいよ新連載が始まりますね。
藤田 そのうちタイトルが発表されると思いますが「ああ、そういう話ね」てのが一発でわかると思います。笑っちゃうと思いますよ。
——タイトルって、どうやって決めるんですか?
藤田 話の内容が決まっていなくても、タイトルと登場人物の名前を考えるのは好きなんです。かっこいい話を考えるときには、かっこいいタイトルをつけたいじゃないですか。「俺はこんなかっこいいタイトルで、かっこいい話を作るんだな」って自分を酔わせていかないと、ネーム描けないですよ。そこは少年誌ですからね、「照れずに出せ」です。
——ある漫画家さんが「タイトルはただの商品名ではない。何を描くか迷った時にタイトルに戻れば、描くものが浮かんでくるようなタイトルじゃないとダメだ。だからタイトルは戦略なんだ」とおっしゃってました。
藤田 なるほど! 俺はそこまで言語化できていなかったけれど、「タイトルに立ち返れ」ってのは自分でも思っているし、うちのアシスタントたちにも言っていることなんです。『うしおととら』だったら、潮ととらの物語を描けばいいんです。
——『ゴースト アンド レディ』はゴーストとレディ(ナイチンゲール)の物語。
藤田 そうなんですよね。ある女と、ある幽霊の物語。タイトルは灯台みたいなものだから、その灯りをめざしていけばいい。「タイトルに込められた意味は、結局こういうことなんだよ」と伝えられればいい。
——先ほどの話(インタビュー第2弾より)で言えば、タイトルの段階で「アンカーが打ち込まれている」わけですね。今度の新作はタイトルからして「そういう話ね」ということがわかるのであれば、かなり「アンカーが打ち込まれている」状態なんですか?
藤田 いやー、油断はできません。コケるかもしれませんからね。いつでもミスは、脇で口を開けて待ってますから。それはもしかしたらマンガ家の傲慢(ごうまん)からくるのかもしれません。
——傲慢、ですか?
藤田 そう。全部わかったような気になっていると失敗をする。うぬぼれからくるミスです。『うしおととら』でうまくいったから今回も大丈夫だろう……と思っていたら、その傲慢さから『からくりサーカス』は失敗した。
——ええっ? 失敗してましたか?
藤田 最初のほうはね。
——具体的にどのあたりでしょうか?
藤田 主人公は鳴海という青年だったんですけど、主人公の目線を置くのは、そこじゃないはずなんです。本来なら少年・勝の目線で始めなければいけなかった。勝は子どもだから、「何が起きたの?」「あれってどういうこと?」と質問をするんです。それで話は進んでいくし、「怖いよ」と感情を吐露するから、話がわかりやすかったはず。でも鳴海は青年で、ある程度は物事がわかっているから、質問があまり発生しないし、感情もあまり揺れ動かない。ちょっと複雑な物語を展開していくには、動かしづらくなってしまった。それで、いったん退場してもらいました。もっと愉快な話を作らなければならなかった。
——読者が目線を同期させて一緒に冒険していくには勝のほうがよかった、ということですね。
藤田 その最初のつまずきがなければ、もう3年くらいは短くなったかもしれないです。結局9年やっちまいましたからね。
——物語全体を通してみると、そんなに違和感はありませんでしたが。
藤田 苦労して立てなおしたんです。もう必死でしたから。
——結果論としては、よかったんじゃないでしょうか?
藤田 ただねぇ、最初のつまずきが悔いになりますね。もっとスマートに斬り込んでいきたかった。
——なるほど。
藤田 だからね! 今回『ゴースト アンド レディ』を選んでいただきましたけれど、それで油断してダメになってしまわないように、これからも「このマンガがすごい!」は憎み続けさせてもらいますよ!(笑)。
——こちらこそ先生に無視されないようにがんばります。本日はありがとうございました。新作、楽しみにしています!
『黒博物館 ゴースト アンド レディ』上下巻は現在、好評発売中!
過去に更新した藤田和日郎先生のインタビュー第1弾はコチラから、さらに第2弾はコチラからチェックしてください!
取材・構成:加山竜司
カメラマン:辺見真也