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『異世界居酒屋「のぶ」しのぶと大将の古都ごはん』原作者・蝉川夏哉インタビュー 発売直後から反響が止まらない!!!大ヒット作品の誕生秘話とは!?

2016/04/30


人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。

今回お話をうかがったのは、蝉川夏哉先生!

ちょっとおいしいフツーの居酒屋が、異世界でなんだか繁盛しちゃう(!?)

現在大大大好評中の“飯テロ”ファンタジー『異世界居酒屋「のぶ」しのぶと大将の古都ごはん』。
原作描きおろし×原作イラストレーターのマンガ化という、『異世界居酒屋「のぶ」』ファンはもちろん、そうでない方にもそのやばさが伝わるいわゆる原作コンビによる『異世界居酒屋「のぶ」しのぶと大将の古都ごはん』はどのように生まれたか。 今回は原作者である蝉川夏哉先生に誕生秘話についてうかがいました。

原作者:蝉川夏哉

1983年、大阪府生まれ。大阪市立大学文学部卒業。
『異世界居酒屋「のぶ』が第2回なろうコン大賞を受賞。他の著書に『邪神に転生したら配下の魔王軍がさっそく滅亡しそうなんだが、どうすればいいんだろうか』(アルファポリス刊)がある。現在カクヨムにてダンジョンボーイ・ミーツ・ガール『迷宮の子』を連載中。


2つの“孫”の違いとは!?

——『古都ごはん』は、「ヤングエース」で連載中の『異世界居酒屋「のぶ」』(KADOKAWA)に続く、2つ目のコミカライズです。その単行本が発売されたお気持ちは?

蝉川 本当に信じられない気持ちというか、企画段階や連載中から私も関わっていたわけですが、実際に形になってみると素直にうれしいという気持ちですね。自分の書いた小説は自分の子どもみたいなものなのですが、それがコミカライズという形になると孫のような感じです。

絶賛発売中!

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——もう孫が2作もいますね。

蝉川  「ヤングエース」で連載しているヴァージニア二等兵先生のコミカライズは、原作小説をよく汲みとってくださっていて、マンガ作品としての出来もたいへんすばらしいものになっていると思います。
それに加えて、転(くるり)先生のコミカライズは、私が話の筋を作ってマンガにして……という過程を踏んでいるので、そのぶん「コミカライズされる」ということのありがたみを直に感じました。

——『古都ごはん』は原作小説1巻の時系列で描かれていますね。ストーリーはどのように考えていったのでしょう。

原作小説1巻と同じ時系列の視点を変えることで新たなストーリーが生まれた。

原作小説1巻と同じ時系列の視点を変えることで新たなストーリーが生まれた。

蝉川  『異世界居酒屋「のぶ」』という作品は基本的に“居酒屋へ来る人”側に視点を置いて描いています。そのなかでは、しのぶと大将は居酒屋の店員で、お迎えする立場なんですね。
『古都ごはん』ではそうではなくて、「のぶ」の店員である2人が異世界へやってきた、という視点で描いています。もちろん『異世界居酒屋「のぶ」』という作品であることは変わりないのですが、日本人であるしのぶと大将=信之が異世界へやってきてしまった、という時にどういうことを感じるんだろう、という部分を大切にしてストーリーを考えていきました。

表の入り口が中世ヨーロッパ風の異世界につながってしまった。

表の入り口が中世ヨーロッパ風の異世界につながってしまった。

——原作小説ではあまり描かれなかった、しのぶと信之が古都の料理から影響を受けている様子が見てとれますね。

蝉川  そうですね。たとえば旅って、人が場所を通り過ぎていくわけですよね。逆にその人の人生の側に立って見ると、旅をした場所がその人の中を通りすぎていく、とも捉えられます。原作小説では古都という場所へ、居酒屋のぶがやってきたよ、となる。
それに対して『古都ごはん』の方では、居酒屋のぶというお店に対して、古都というものがやってきたっていう相互関係なので、互いに影響を与えていることがいいのかなと思います。

——登場する料理はどのように決めたのでしょう。

蝉川  最初は居酒屋のまかないごはんで統一する予定だったのですが、まかないとなるとどうしても店の内側に留まってしまいそうでした。『のぶ』のストーリーはもちろん異世界のお話で、しのぶも大将の信之も異世界という場所に関わっていくことになります。文化の違う場所で料理を振る舞うなら、味つけはどうしたらいいんだろうとか、古都の街にはどんな食べ物があるんだろうとか、原作では描ききれなかったところに踏み込んでいます。原作でも徐々に居酒屋のぶの料理が、古都の文化と交じりあっていっていますね。

——視点の違う2つのストーリーを考えるに当たって、苦労したことはありますか。

蝉川  今回の『古都ごはん』は元々あった原作に付け足す形でストーリーを考えたわけですが、それは難しかったですね。原作小説は先のストーリーを考えていけばよいのですが、『古都ごはん』では1巻時点でのストーリーや設定に矛盾がないようにしなければいけないですから。私からすると最新の状態から過去にさかのぼって、その時系列でのキャラクターたちでお話を考えなければいけないわけで……。自分の記憶を辿る旅のようになっていました。

——記憶を辿るときは何を参考に?

蝉川  原作1巻を書いていた当時のメモを読んだりしますが、メモの段階と書籍に出力された段階ではまた違うので、メモを読みつつも基本的には1巻を読み返す作業が一番多かったですね。だいたい『のぶ』を書くときにはノート1冊ぐらい使い潰すので、結構情報は入り組んでいるんです。

——『古都ごはん』で注目してほしいところは、どこでしょうか。

蝉川  やはりしのぶちゃんがおいしそうにごはんを食べているシーンですね。くるり先生の柔らかい絵もあいまってどの話でもしのぶちゃんが幸せそうなんです。強いてあげるなら2皿目のヴルストを食べてビールを飲むシーンでしょうか。彼女が古都に来て、初めて現地の食べ物を美味しいと感じているシーンなので気に入っています。
もうひとつ、気に入っているシーンを上げるなら、7皿目の見開きで、みんながビールを飲んでいるシーンですね。居酒屋にいる客たちの一体感が感じられていいですね。

腸詰め=ウィンナーとビールがよく合うのはわかります!

腸詰め=ウィンナーとビールがよく合うのはわかります!

——ストーリーとしては何皿目がお気に入りですか?

蝉川  お話としてはブランターノが酒をふるまう話が好きです。ここで『古都ごはん』で描こうとしたことの答えが出ているのだと思います。このコミカライズの答えでもあるし、居酒屋っていうものの答えでもあるので、話全体が好きですね。

——6皿目で出てきた問に対するアンサーというわけですね。

蝉川  “居酒屋”という場所の良さについて、けっこう悩みましたからね。でも悩んだだけはある話になったのではないかと思います。

——この単行本では連載版にはなかったおまけとしてジャン=フランソワの報告書や、ゲーアノートの日誌が載っていますが、それらを書いてみていかがでしたでしょうか。

蝉川  内容としては、古都っていうのはどんなところかというのをジャン=フランソワが報告する話と、原作1巻での大きな事件をゲーアノートが振りかえるという形式の話です。この本だけを読んでもある程度設定や物語がわかるようにする意図もあり、原作の読者にもにやりとしてもらえる、そのような形を意識して書きました。
『異世界居酒屋「のぶ」』という作品自体がライトノベルとしては変化球というか、連作短編の各話で視点人物がころころ変わる手法をとっています。それでも一線として小説という体裁は守っていました。
ですが、今回は報告書や日誌という、いわゆるモキュメンタリーのような書き方をしたので、表現できるものも変わったな、という印象です。ただ、これらをおもしろいと感じるかどうかは作品をどれだけ読みこんでくださっているか、というところにも関わってくるので、読者の方々を信頼しないと書けないものでした。逆に言うと、それだけ読者を信頼して書くことができる作品に成長したんだな、というありがたい気持ちにもなりますね。

原作では大人気のキャラクター・ゲーアノート。日誌からも彼の性格が伺える。

原作では大人気のキャラクター・ゲーアノート。日誌からも彼の性格が伺える。

——最後に読者のみなさんへひと言お願いします。

蝉川  古都ごはん』はくるり先生のお力が加わって、とてもおもしろいマンガになっておりますので、ぜひぜひみなさん読んでください。これからも『のぶ』シリーズは続いていきます。この『古都ごはん』もそうですが、KADOKAWAさんの「ヤングエース」ではヴァージニア二等兵先生が描く本編のコミカライズも続いています。ついでに、原作小説も4巻まで刊行中です。そちらもよろしければお手にとってみてください。

取材・構成:岡田勘一

単行本情報

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