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『トクサツガガガ』丹羽庭インタビュー ディープな趣味世界に生きる“特オタ女子”の描写は「ひとつの視点に偏らない!」からこそ生まれた!!

2016/06/20


人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。

今回お話をうかがったのは、丹羽庭先生!

日曜朝に放送されている特撮ヒーロー番組の熱烈なファンでありながら、周囲にそれを悟られないように生きている……。そんな「隠れオタク」な26歳OL・仲村叶の日常を、架空のヒーロー番組の名シーンを交えながら描いた『トクサツガガガ』。
そのいろいろな意味で“濃い”登場人物たちの群像劇は、実際の特撮ファンからそうでない人たちまで、そして女性・男性の区別なく、笑い&共感を呼び、見事『このマンガがすごい!2016』にランクイン!

今回、最新単行本7巻発売直前の時期に、著者の丹羽庭先生にインタビューを実施! なぜ「特撮オタク女子」というニッチな題材での連載がスタートしたのかという部分から、たっぷりとお話をうかがいました! もちろん、題材となった特撮ヒーロー番組についてのエピソードも。
これで『トクサツガガガ』のディープな世界が、何倍も理解できる!?

著者:丹羽庭

2009年に「NO MAN IS AN ISLAND」で、講談社「アフタヌーン四季賞」で大賞を受賞。2012年から2013年まで、「月刊コミックブレイド」(マッグガーデン)で『とべっ!! LUCK★ROCK★GIRL』を連載。

2014年8月より、小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」で『トクサツガガガ』の連載をスタート。
2016年6月30日に、単行本最新第7巻が発売予定。

「特オタ」だって普通の人……ステレオタイプなオタク描写への違和感

――『トクサツガガガ』は、いわゆる「特オタ[注1]」と呼ばれるジャンルの、隠れオタクのOLが主人公……という、言ってしまえば“ニッチ”なところを描いた作品ですが、「このマンガがすごい!2016」ではランキング企画で多くの支持を集めることとなりました。単行本のあとがきなどで明かされていることと少しカブるとは思いますが、まずは、こういった題材を描こうとしたきっかけからお聞かせください。

丹羽 もともとは素直にヒーローが活躍する話を描きたいと思っていたんですけど、担当さんに「こういうの(ヒーローもの)を好きな人って、そんなに数はいませんよね?」みたいなことを言われてしまいまして。それで「いやいや、そんなことないですよ! 友人にもファンがいて」とか説明してるうちに、ファン自体のほうに興味を持たれてしまって(笑)、「じゃあ、そっちをマンガにしましょう」となったんです。

――本作は主人公の仲村さんをはじめとする、オタク趣味の人たちの描き方が特徴的です。どちらかといえば「オタクだって普通の人だよ」という描かれ方をしていて、そこが“同族(仲間)”からすれば非常にありがたい部分であると思います(笑)。とはいえ、マンガにするにあたっては、「オタク趣味を持つ人たちのエキセントリックな部分を描いたほうが、話は作りやすいのでは?」という気もするのですが。

丹羽 自分が描くもので、同じ趣味を持つ人たちにモヤモヤした思いをさせたくないっていうのがまずありますし、変にステレオタイプ的に描いてしまうと、それこそ一般の人たちに「オタクってこういうものなのね」って思われてしまって、ますます趣味を隠さなくちゃならなくなる……なんてことにもなりかねませんからね。

──作中では仲村さんが、特オタであることを職場でひた隠しにしていますよね。

会社にお弁当を持参して、周囲から「女子力が高い」とされる仲村さんだが、その理由は……。

会社にお弁当を持参して、周囲から「女子力が高い」とされる仲村さんだが、その理由は……。

丹羽 それに関して「オタク趣味がバレるぐらいどうってことないよ」って言われる方もいますし、逆に「これぐらいじゃ絶対に隠せてないよ!」っていう意見もあるんです。ただ、たとえば仲村さんが会社で“オタバレ”したとして、それでなんともなくて、よかったね……みたいな展開じゃ、読んでる人が誰も納得しないだろうっていうのがありまして(笑)。

──オタク趣味を隠したいという仲村さんの心理は、丹羽先生自身の体験にもとづくところもあるんでしょうか?

丹羽 自分のことで言えば、学生の頃に「絵を描くんでしょ?」って言われて、まぁいいかなって思って見せたことから、思わぬところまで話が伝わっちゃって、よく知らない人からも「描いてよー」みたいなことがあって……。そういうのって相手に悪気がまったくないだけに、逆に困った気持ちをどうしたもんかって、あるじゃないですか(笑)。

──わかります、わかります!

丹羽 私自身は会社勤めではないので、べつに今は自分の趣味がバレてもどうってことはないんですけど、仲村さんと同じような環境の人が「この人なら打ち明けても大丈夫かな」って職場の人に話したことが、いつの間にか広まってしまっていて、まったく別の部署の男性から「ヒーローものとか好きなんでしょ?」みたいなことを急に言われて、正直ちょっと……みたいなことがあったという話を聞いたこともありますし。

──そういった話を聞けば、簡単にオタク趣味がカミングアウトできない事情も理解できるというか。単純に「言っちゃえば楽になる」というものでもないんですね。

丹羽 はい。ケース・バイ・ケースだと思うので、作中でも「言いたくなければ言わなくてもいいじゃない」ということにしてありますし、そこはあまり突っつくつもりもないんですよ。

──「人それぞれでいい」みたいな考え方が、『トクサツガガガ』の根底にあるような気がしますね。そして作中には特オタの仲村さんや吉田さんだけでなく、たとえば女児アニメの大ファンである男性の“任侠さん”など、様々な立場の人が登場するわけですが。

人気女児アニメ「ラブキュート」シリーズの大ファンで、仲村さんの理解者のひとり・通称“任侠さん”。

人気女児アニメ「ラブキュート」シリーズの大ファンで、仲村さんの理解者のひとり・通称“任侠店員”さん。

丹羽 仲村さんの立場からだけで描いてしまうと、一歩間違うと「男社会が悪い」みたいなフェミニズム的な話にもなりかねない気がして、私としてはそういうふうにはしたくなかったんですね。それもあって“任侠店員”の彼は、「男性にだって隠れオタクがいるよ」って意図で登場させたりしました。

──他にも仲村さんの兄がバンドマンだけど家庭持ちだったりして、「子どものいる家庭」からの視点なども盛り込まれているあたり、オタク的なテーマでありながら、内に閉じた感じがしないのも特徴かと。

特撮ファン引退を考えていた吉田さん(画面奥右)や、ドンピシャの視聴世代をやや過ぎたといえる小学生・通称“ダミアン”(同左)など、同じ「特撮オタク」に限っても、多彩な視点のキャラが揃う。

特撮ファン引退を考えていた吉田さん(画面奥右)や、ドンピシャの視聴世代をやや過ぎたといえる小学生・通称“ダミアン”(同左)など、同じ「特撮オタク」に限っても、多彩な視点のキャラが揃う。

丹羽 どこか一方の視点に偏らないのは意識していること……かもしれないですね。


  • [注1]特オタ 特撮オタク。『トクサツガガガ』で大きく取り上げられている、等身大の変身ヒーローが活躍する番組(「仮面ライダー」シリーズや「スーパー戦隊」シリーズなど)だけでなく、「ウルトラマン」シリーズなどの巨大ヒーローが登場する作品、「ゴジラ」シリーズや「ガメラ」シリーズなどの怪獣映画、『快獣ブースカ』や「東映不思議コメディー」シリーズなどのコメディやファンシーもの、怪奇映画やSF映画や戦争映画やパニック映画など、細かな特撮内ジャンルごとに、熱心なファンが存在する。 。

単行本情報

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