「あの話題になっているアニメの原作を僕達はじつは知らない。」略して「あのアニ」。
アニメ、映画、ときには舞台、ミュージカル、展覧会……などなど、マンガだけでなく、様々なエンタメ作品を取り上げていく「このマンガがすごい!WEB」の人気企画!
そう、これは「アニメを見ていると原作のマンガも読みたいような気もしてくるけれど、実際は手に取っていないアナタ」に贈る優しめのマンガガイドです。「このマンガがすごい!」ならではの視点で作品をレビュー! そしてもちろん、原作マンガやあわせて読みたいおすすめマンガ作品を紹介します!
今回紹介するのは、TVアニメ『サクラダリセット』
咲良田(さくらだ)。そこは超常的な力を持った人々が、「管理局」によって緩やかに統制されながら、力を持たない住人たちと共生している街。
その街に生きる高校生・浅井ケイは、過去に体験したすべての出来事を思い出すことができる、「記憶保持」の能力者。その能力は、同級生の春埼美空が持つ「リセット」――世界を最大3日分巻き戻す――の能力に巻きこまれても持続する。
つまり2人がそろい、条件さえ整えれば、一度決まってしまった世界を変化させることができるのだ。
『サクラダリセット』は、そんな強力な力を行使できる2人の「奉仕クラブ」の高校生を中心に、様々な能力者たちが引き起こす事件を、静かに、しかし、ドラマチックに描く作品だ。
SF要素のあるミステリーであり、青春群像劇でもあり、ラブ・ストーリーでもある。
原作は2009年から12年にかけて角川スニーカー文庫から全7巻で刊行され好評を博したライトノベル。その後、2016年から2017年にかけて、本文に大幅な加筆・修正が施された新装版が、同じく全7巻で角川文庫から刊行された。
著者の河野裕は、2014年に新潮文庫nexから刊行した『いなくなれ、群青』によって、いわゆる一般文芸の読者に発見され、大ブレイク。その『いなくなれ、群青』に始まる『階段島』シリーズの好調なセールスが、『サクラダリセット』シリーズの新たな読者による再発見につながり、おそらくはアニメ化・実写映画化に寄与しているのだろう。
作品のみどころは、複雑なロジックで展開される「能力」バトルと、登場人物たちの繊細な心理描写だ。この作品では、主人公の浅井を筆頭に、登場人物のだれもが、その胸の内に抱いた感情を直接的には表現しない。
アニメ版では、原作の持ち味のひとつである屈折した地の文は、映像という表現媒体の特性にあわせてざっくりとオミットされているが、遠まわしで詩情を感じさせるセリフの数々は健在だ。
石川界人、花澤香菜、悠木碧といった若手の実力派豪華声優陣による芝居も、セリフの魅力を絶妙に引き出している。
また、物語の大きな展開自体はそのままだが、刊行順とは異なる形でエピソード順を再構成、シリーズを牽引する大きな「謎」をアニメ版独自のかたちでつくり上げている。映像面でのつくりこみだけでなく、シナリオ面での丁寧な仕事ぶりには好感が持てる。
もちろん、映像面も充実している。男女問わず惹きつける清潔感のあるキャラクターデザインと、角川スニーカー文庫版のイラストを思わせるパステル調の色彩設計によってつくりあげられた画面。演出もケレン味を廃した丁寧なものだが、ここぞというところでは流血シーンや暴力といった、今作を特徴づけるエグい表現に真っ向から取り組んでいる。
ストーリーもキャラも演出も、サラッと楽しめもするが、深く掘り下げるだけの余地はたっぷりとある作品だ。流し見しても楽しいが、少しでも心にひっかかるものがあったら、ぜひじっくりと腰を据えて、集中して楽しんでほしい。
TVアニメ『サクラダリセット』を観たあとに……
今回、TVアニメ『サクラダリセット』をさらに楽しみたいアナタに、読んでほしいマンガ作品を紹介しちゃいますよっ。
『サクラダリセット CAT,GHOST and REVOLUTION SUNDAY』河野裕(作) 吉原雅彦(画) 椎名優(キャラクター原案
『サクラダリセット CAT,GHOST and REVOLUTION SUNDAY』 第1巻
河野裕(作) 吉原雅彦(画) 椎名優(キャラクター原案)
KADOKAWA ¥560+税
(2011年11月23日発売)
2011年に連載された作品。原作小説の1巻(アニメでは3話・4話にあたる内容)を、『ブラック彼女』の吉原雅彦が丁寧にコミカライズしている。
なお、2017年現在、原作者の河野裕がシナリオを担当、『なり×ゆきリビング』の乃花タツが作画を担当した、新たなコミカライズが「ファミ通コミッククリア」にて連載中。
媒体ごとの語り口の違いを楽しんでみるのも一興だ。
『サクラダリセット』コミカライズのほかに、このマンガもおすすめ!
『ジョジョの奇妙な冒険』荒木飛呂彦
『ジョジョの奇妙な冒険』 第29巻
荒木飛呂彦 集英社 ¥390+税
(1992年11月発売)
奇妙な能力者が集まった地方都市で起こる事件……といったら、なんといっても連想しないではいられないのが、『ジョジョ』の第4部だろう(ただしこちらで「リセット」能力を駆使するのは、主人公サイドではなく、敵役だが)。
大メジャータイトルなうえに、つい先日までアニメも放映されていたわけで、いささかどうかと思いつつ、改めて『サクラダリセット』のファンに向けてオススメする次第である。
<文・後川永>
ライター。主な寄稿先に「月刊Newtype」(KADOKAWA)、「Febri」(一迅社)など。
Twitter:@atokawa_ei