話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!
今回紹介するのは『このマンガがすごい! comics 珈琲店タレーランの事件簿 心を乱すブレンドは』
『珈琲店タレーランの事件簿 珈琲店タレーランの事件簿 心を乱すブレンドは』の峠比呂先生、岡崎琢磨先生から、コメントをいただきました!
『このマンガがすごい! comics 珈琲店タレーランの事件簿 心を乱すブレンドは』第1巻
岡崎琢磨(作) 峠比呂(画) 宝島社 ¥630+税
(2017年5月24日発売)
京都・二条通交差点近くにある純喫茶タレーランで、青年アオヤマは理想のコーヒーに出会う。コーヒーを淹れるのは、うら若きバリスタ・切間美星。タレーランに通うようになったアオヤマは、彼女が卓越した推理力の持ち主と知り、不思議な謎の数々に挑むことなる――。
岡崎琢磨氏による『タレーランの事件簿』シリーズは、2012年8月に宝島社から刊行され、2017年5月現在は最新刊『珈琲店タレーランの事件簿5 この鴛鴦茶がおいしくなりますように』が刊行され、シリーズ累計227万部の超人気シリーズだ。2015年2月からは峠比呂氏作画によるコミック版もスタート、単行本は現在第5巻(第1シリーズ全2巻、第2シリーズ「彼女はカフェオレの夢を見る」全2巻、そして今回の第3シリーズ「心を乱すブレンドは」第1巻で計5巻。)までが刊行されている。
切間美星が解決する事件はいわゆる「日常の謎」で、それぞれが各話で解き明かされながら、やがては1本の物語を形づくってゆく。また舞台が京都であるため、独特な区画や路線を巧みに利用したご当地ミステリの側面も持つ。これらが本作の最大の特色といえる。
レギュラーキャラクターとしては美星に加え、常連客にして美星に想いを寄せるアオヤマ、若い女性に目がないオーナーで美星の大叔父となる藻川又次が配され、さらに落ちついた雰囲気の美星とは対照的に元気いっぱいの妹・美空、美星の友人の水山晶子、猫のシャルルなど巻を追って登場人物が増えてゆく。物語においても、次巻に引っ張るネタがあるため、読み始めたら途中で投げ出すことはできないのだ。
こうして巻を重ねた『タレーラン』は、峠氏のコミック版によって新たな世界が広がった。まず注目すべきは美星の作画で、いつも穏やかな笑みを浮かべているshirakaba氏による小説版カバーラストと違い、喜怒哀楽がじつに豊か。変顔はもちろん、「げ」などというヒロインらしからぬセリフも発してくれる。特筆しておきたいのは、推理の際の決めセリフ「その謎、たいへんよく挽けました」の各シーンだ。時には小説では描写されていない表情が、「行間を読んだ」としか思えない精度で峠氏によって表現されている。
そのほか、碁盤状の京都の街並みがカギとなるエピソードや、叙述トリックの視覚化などコミックならではの楽しさもいっぱいだ。