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【実録レポ】カール戦争勃発! 東西分岐点で今起きていること【B級ニュース】

2017/06/06


複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。

今回は、「東日本でカール販売停止」について。


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『明治 カール チーズ味』

われわれは、今歴史の分岐点に立っている。

先週、明治製菓がスナック菓子「カール」について、8月生産分をもって全国販売を中止し、販売地域を西日本地域に限定する旨を発表した。1968年の発売以来、日本中で親しまれてきた「カール」が、東日本から姿を消してしまうのだ。
そこで、ハタと気づく。
そもそも「カール」という名前は、人名であればドイツ系であろう。
その「カール」が、東西に国を二分するというのだ。
ベルリンの壁で隔てられた東西ドイツのように、われわれの国は、今まさに東西分裂の危機にあるといっても過言ではないッ!
これは、かつて来た道である。
そう……、冷戦。
コールド・ウォー。
あらためていおう。
われわれは、今歴史の分岐点に立っている。

しかしッ!
やはりドイツの賢人の言葉を借りれば、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」(オットー・フォン・ビスマルク)という。
冷戦時代の東西ドイツを学ぶことで、われわれは来るべきカール東西分裂の危機に立ち向かうことができるハズだ。
そこで今回は、東西ドイツを描いたマンガに冷戦時代を学んでいく。
題して「カール食べながらマンガ読もうぜ」特集であるッ!!

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『MONSTER 完全版』 第1巻
浦沢直樹 小学館 ¥1,429+税
(2008年1月30日発売)

ベルリンの壁がつくられたのは1961年8月13日のこと。以来、ベルリンの壁は冷戦時代の象徴としてベルリンを東西に分断していたが、1989年11月9日に東ベルリン市民によって破壊され、翌1990年10月3日に東西ドイツは再統一を成し遂げた。
ドイツ統一前後の時代を舞台とするのが、浦沢直樹『MONSTER』である。
主人公の天馬賢三(てんま・けんぞう)は、天才的な脳外科技術を持つ日本人外科医。1986年、西ドイツ(当時)のデュッセルドルフにあるアイスラー記念病院に勤務していた。
天馬はハイネマン院長のいいつけに背き、“強盗事件”の被害児童(ヨハン)の手術を優先し、それにより天馬は医局で失脚してしまう。ところが、院長らが何者かによって殺害されたことにより、天馬は地位を回復。それから9年後、かつて命を救ったヨハンと再会し、天馬の運命は大きく動いていく。
ヨハンは1986年に東ドイツから西ドイツへ亡命してきた東独貿易局顧問リーベルト氏の息子であり、旧東ドイツに存在したという孤児院「511キンダーハイム」が物語上で大きな役割を担うことになる。
2004年には日本テレビ系列でアニメ化もされたサスペンス・ミステリーの傑作だが、冷戦時代の東西ドイツの歴史を知れば知るほど、重層的な物語を楽しむことができるハズだ。

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『文庫 ゴルゴ13』 第128巻
さいとう・たかを リイド社 ¥476+税
(2010年5月31日発売)

さて、浦沢直樹氏が信頼を寄せるパートナーといえば、マンガプロデューサーおよび原作者の長崎尚志氏だ。浦沢作品では『PLUTO』のプロデューサー、『BILLY BAT』のストーリー共同制作者として名前がクレジットされているので、マンガファンにはなじみのある名前だろう。
編集者時代には『ゴルゴ13』を担当したこともある長崎氏が、独立後、別名義で『ゴルゴ13』の脚本協力をしたのが「真のベルリン市民」(リイド社文庫版第128巻収録)である。
舞台は2003年のベルリン。細菌学者のヨセフ・マインは、冷戦時代の1981年に父の葬儀で出会った男・カンプと再会し、亡父オットー・マインが同じく細菌学者として何を研究していたのかを聞かされる。オットーは自身の研究を、ある大きな企てに用いようとしていたようだ。
まだベルリンに壁が建設される前、西ベルリン地区に住むオットーは、東ベルリン地区に住むカール・ネフと友情を育む。そして2人の交流は、秘密裏に1961年以降も続いたようだ。
ヨセフの父オットーは、“売国奴”だったのか、それとも“愛国者”だったのか?
作中、ベルリンの境界線上に存在した国境検問所、通称「チェックポイント・チャーリー」が登場する。2015年のスピルバーグの映画『ブリッジ・オブ・スパイ』でも舞台となった“名所”だ。
ベルリンの壁を前にして、オットーとカールの思惑が交錯する。

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『ライオンブックス』 第7巻
手塚治虫 講談社 ¥563+税
(1983年12月15日発売)

浦沢直樹氏と長崎尚志氏が手がけた『PLUTO』は、手塚治虫『鉄腕アトム』の「地上最大のロボット」をもとにした作品だ。
手塚作品のなかには、ドイツの戦中〜戦後を舞台にした『アドルフに告ぐ』という傑作があるが、「壁によって国土を分断する」ことを大きくフィーチャーした作品としては「狂った国境」を紹介したい。
近未来、南極にはレッドベア国とブルジョイ国が成立。
両国は国境線にバリケードをつくり、にらみあっていた。レッドベア国の国境守備隊長・ロゴスは、ブルジョイ国へと亡命する市民を見張り、冷酷にも処刑していた。
ところが、この国境は、日によって自然に移動してしまうようだ。そこで国連から日本人の少年科学者・オーガキ龍太が派遣され、地質調査をすることになる。
国境移動の原因を突き止めた龍太は、住民に避難をうながす。しかし、手近な避難場所へと至るには、国境を越えなければならない。
越境者に対して厳格なロゴスを、龍太は説得できるのか……?
本作が描かれたのは1957年(集英社「おもしろブック」1957年3月号別冊付録)。つまり、ベルリンの壁が建設されるより4年も前のことである。
また、現在の南極は、1961年に成立した南極条約により、特定の国の領有権や軍事利用、核実験などが禁止されているが、この作品が発表された時点では、各国が南極の領有権を主張していた状況である。 そうした世界情勢のなか、このような予言的な寓話を描きあげた手塚治虫は、やはりおそるべき著者といわざるをえない。

今年の夏以降、「カール」の発売が中止された東日本では、カール東西格差の冷戦構造の下、西日本から輸入された闇カールが地下流通するハズだ。
その行商人は、もしかしたら、黄色い麦わら帽子をかぶり、首にタオルを巻き、口のまわりにグルッとひげをはやしている……かもしれない。
秘密の取引の合言葉は、もちろん「それにつけても?」「おやつはカール」だ。
みんな、冷戦に備えよッ!!



<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama

単行本情報

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