365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
2月11日はBBCドラマ『R.U.R.』が放送された日。本日読むべきマンガは……。
『PLUTO』 第1巻
手塚治虫(作) 浦沢直樹(画) 小学館 ¥524+税
1938年2月11日、この日イギリスのBBCでカレル・チャペックの戯曲『R.U.R.』を原作とするドラマが放送された。
その戯曲は、初めて「ロボット」という単語が使われたことで非常に有名な作品。そしてBBCのドラマは、世界初のテレビSFドラマなのである。
つまりいい方を変えると、本日はTVドラマにロボットが初登場した日でもある。
それから約80年たった現在、日本においてはTVにロボットが登場しない日などおおよそありえないわけだが、その礎となった作品といえば、やはり『鉄腕アトム』をおいてほかはない。
アトムの存在は創作の世界のみならず、現実のロボット開発にも影響を及ぼすほどだが、ことマンガにおいては、アトムがなければ絶対に誕生しなかった作品の筆頭としてあげられるのは、浦沢直樹が『鉄腕アトム』の1エピソードである「地上最大のロボット」を大胆にリメイクした、『PLUTO』だろう。
原典ではわずか数ページしか登場しない、ドイツの優秀なロボット刑事・ゲジヒトを主人公にすえ、彼の視点で「世界最高水準の7体のロボット」が襲撃された事件を描く本作。
大量破壊兵器の探索という名目で、その7体のロボットが戦争に関わったというストーリーは、『PLUTO』の連載当時にそのぜひが問われていたイラク戦争問題が色濃く反映されたものとなっているが、今となってはそれ以上に興味深いのは、「ロボットの人権」の描かれ方かもしれない。
ロボットも人間と平等に生きる権利が社会ルールとしては確立されているものの、本心ではそれを心よく思わない人たちが根強く存在し、軋轢を生み出しているといった描写は、アメリカ大統領選挙などによってはからずも非常にタイムリーなものに……。
そのことにも注目しながらあらためて読んでみると、連載当時とはまた違った印象も受けるのではないだろうか。
何はともあれ、ロボットを通して描かれるドラマの進化と深化に驚かされるとともに、『PLUTO』ほどダイレクトではないにせよ、『鉄腕アトム』の時点で様々な社会問題を予見していたことがかいま見えることにも驚嘆せざるをえない。
というわけで、『PLUTO』とともに、原典の「地上最大のロボット」もあわせて読むことをおすすめしておきたい。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。